「PitchBook 2021US Venture Capital Outlook Report」は、2021年は米国全体のVC(ベンチャーキャピタル)の中で史上初めて西海岸のシェアが20%を下回ると予測しています。米国のVC(ベンチャーキャピタル)は、2020年に投資家から総額1,562億ドルの調達を行なっているとPitchBookは報告しており、その内22.7%は西海岸で調達の取引が行われました。
米国VC(ベンチャーキャピタル)取引数におけるシリコンバレーのシェアは2006年以降毎年減少しており、
・シリコンバレーでの生活費の高さ
・西海岸のスタートアップ企業の資金調達にかかる費用の高額化
・在宅勤務の増加による本社移転
・マイアミ、ソルトレイクシティ、シカゴへの移転
などが主な要因とされています。
本稿では、米国のVC(ベンチャーキャピタル)市場動向について解説し、2021年のスタートアップ投資のトレンドについて考察していきます。
ベンチャーキャピタル(VC)トレンド予想2021

感染症防止対策とワクチンの重要性が高まる中、2020年にはバイオテクノロジーや創薬分野のスタートアップ企業に多くの資金が投じられました。
Ginko BioWorks:7,000万ドル調達/評価額 47億8000万ドル(シリーズF)
ライエル:4億9,300万ドル調達/評価額 20億ドル(シリーズC)
Orca Bio:1億9,200万ドル調達/評価額 10億ドル(シリーズD)
Zymergen:3億5000万ドル調達/評価額 17.5億ドル(シリーズD)
その中でも「SanaBiotechnology」はシリーズAで総額8億2,100万ドルの調達を実施し、評価額27億7000万ドルでIPOに向けてFORM S-1を申請。
「SanaBiotechnology」は糖尿病、中枢神経系障害、心血管疾患の改善に向けて細胞療法の前臨床開発を進めており、「患者のための医薬品製造に向けて人工細胞に焦点を当てた優れた会社を構築する」ことをビジョンに掲げています。
バイオテクノロジーや創薬分野以外のホットセクターとしては
人工知能と機械学習
クラウドテック
企業の健康とウェルネス
フィンテック
フードテック
情報セキュリティー
インシュアテック
モノのインターネット
モビリティ技術
ウェルネス
サプライチェーン技術
が挙げられ、ベンチャーキャピタル(VC)は2021年の投資対象として上記の分野に関心を高めています。
「デジタル経済への加速を支援するテクノロジーは、現在多くの投資家が注目しているものです。エキサイティングなのは、起業家がかつてないほど速いペースでイノベーションを起こしていることです。過去10年間、私たちは2年ごとにイノベーションを行ってきましたが、今日では一部のイノベーションが3か月未満で行われています。」
Battery VenturesのジェネラルパートナーDharmesh Thakker氏はこのように述べており、データとソフトウェア分析、エンタープライズソフトウェア、サイバーセキュリティも投資対象であるとしています。日本でもデータエコシステムの利活用によって顧客体験の高度化を促進する取り組みが進んでおり、そのセキュリティを保護するテクノロジーにも今後は注目が集まることでしょう。
Dharmesh Thakker氏はシリコンバレーにおいては、人材プールを維持することが重要であるとしており、2021年は米国のスタートアップエコシステムの変化も大きな争点となると考えられます。
まとめ

オラクルやヒューレットパッカードエンタープライズなども本社をシリコンバレーから移転させる計画を発表し、水面下では「脱シリコンバレー」が進行しています。昨年直接上場によって大きな話題を集めたデータ解析会社「パランティア・テクノロジーズ」はコロラド州デンバーに本社を移転。
日本でもリモートワークの普及によって地方都市に移転する人々が増加傾向にあり、高額な賃貸料を支払わず費用対効果の良いエリアに移転する企業も少なくありません。リモート環境でも効率的なコミュニケーションを図ることのできるZoomやSlackなどのサービスが定着し、オンラインでのコミュニケーションツールには今後も多くの投資が集まることでしょう。