TradeLens|IBMとMaerskによるブロックチェーン国際貿易プラットフォーム

 

ブロックチェーンプラットフォーム「TradeLens(トレードレンズ)」をIBMと共同開発しているA.P. モラー・マースク(以下、Maersk)は世界最大規模の海運企業として125カ国に拠点を持っています。

 

コンテナ船を基盤に業績を拡大し、世界各国で石油・ガス開発事業に取り組んでいましたが、近年ではタンカー事業など事業売却にも成功しており、時代にあわせて事業投資を行っているのが特徴です。

 

事業ポートフォリオの組み替えによって新たなビジネスへの投資資金を捻出するMaerskですが、コンテナ船事業は事業の柱として好調を維持しています。

 

・追記

 

2020310日にはイギリスのスタンダード・チャータード銀行がトレードレンズに参加を発表しており、インドネシアの税関といった国家機関も含め、150組織以上がすでにプラットフォームの利用を行っています。

 

Maerskについて

 

 

アフリカやオセアニアをはじめとして全世界の航路で幅広いシェアを獲得しており、ULCS(ウルトララージコンテナ船)の導入も世界に先駆けて行いました。

 

【ULCS(ウルトララージコンテナ船):全長1,310フィート 幅177フィート】

 

ULCSによってユニットコストの削減や燃費改善が実現され、収益性の改善にいち早く取り組めたのも、事業売却による投資資金の捻出によるところが大きいといえるでしょう。

 

投資負担といったリスクがあるもののULCSの導入によっていち早く価格競争の施策を打つことができ、業界第2位のMSCクルーズとアライアンスを組むといった取り組みも行われています。

 

TradeLensについて

 

 

積極的な先行投資と戦略によって業績拡大に取り組んでいるMaerskですが、2017年3月にはIBMと協働で海運事業に関するブロックチェーン開発を発表しました。

 

2018年1月には合併会社を設立し、同年8月にはオープンプラットフォーム「TradeLens(トレードレンズ)」を共同開発したことを明らかにしています。

 

このプラットフォームは世界234拠点で運用が計画されており、下記の港湾や税関当局が参加しています。

 

税関当局

 

オランダ
サウジアラビア
シンガポール
オーストラリア
ペルー

 

船社

 

Hamburg Sued(ドイツ)
PIL(シンガポール)
ジム・インテグレーテッド・シッピング・サービス(イスラエル)
高麗海運(韓国)
南星海運(韓国)
ボルダ・ラインズ(スペイン)
シーボード(アメリカ)

 

フォワーダー・陸送業界

 

Agility(タイ)
CEVA Logistics(スイス)

 

TradeLens導入の実例

 

 

TradeLensは貿易に関する書類処理を電子化し、リアルタイムで輸送情報を確認できるサービス「クリアウェイ(ClearWay)」を開発しています。

 

このようなブロックチェーン技術によって書類のやり取りだけでなく、コンテナの重量や温度などのデータも瞬時に行えるようになるのです。

 

税関当局や運送業者、港湾、フォワーダーは機密性を損なうことなく情報共有が可能となり、MaerskとIBMの取り組みは日々進化を遂げています。

 

テスト運用では資材の出荷にかかる時間短縮やコンテナの在り処といった課題が解決されるなど、すでにその実用性が確認されいます。

 

FASAHとの統合運用について

 

 

その一例が、サウジアラビア税制当局が運営している「FASAH」との統合運用です。

 

「FASAH」はサウジアラビア貿易において各企業と政府機関を結びつけるプラットフォームとしてすでに実用化されており、ブロックチェーンの導入によってさらなる海運事業の発展を目指しています。

 

MaerskとIBMはサウジアラビア税制当局から専門性や独自システムとの連携を学ぶことができ、世界的なシステム連携がすでに行われていることが確認できています。

 

国際海運業界をリードするMaerskとIBMの取り組みに今後も注目が集まります。

 

 

NTTデータ 国際物流におけるブロックチェーン活用事例

 

海外ではMaerskとIBMによる「TradeLens」、FedExやUPSなど500社が参加する「BiTA(輸送業向けブロックチェーン同盟)」といった取り組みが行われています。

 

日本の物流業界でも書類の管理やチェックが人の手によって行われており、企業間での情報共有も標準化されていないといった課題が存在しています。

 

そのような状況の中で「NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)」は「貿易手続データ連携システム」の実証実験を進めています。

 

実際に京浜港、清水港、博多港ではシステムを実際に使って入力作業が行われ、企業ごとに業務フローが異なる場合には共通のルールを整備するなど、課題解決にむけての実践的な取り組みが進められているのが特徴です。

 

「貿易手続データ連携システム」によって貨物や取引情報の機密性が担保され、港湾でのデータ共有や管理がより円滑に行われるようになることが期待されています。

 

NEDOについて

 

 

NEDOは国と経済産業省が立案した政策に基づいて予算が与えられており、産業界や大学・公的な研究機関がプロジェクトに参画しています。

 

技術戦略や体制の構築を国と産官学が協力して行えるような国立研究開発法人として、オープンイノベーションを実現させることが期待されています。

 

そして、NEDOが推進している『IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業』ではNTTデータがシステム開発を行っています。

 

NTTデータは2017年8月から「貿易ブロックチェーンコンソーシアム」を発足し、川崎汽船株式会社、株式会社商船三井といった企業も参加しています。

 

日本でもこのような取り組みが進行しており、「NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)」とのデータ連携を実現するなど、官民一体となって国際物流の円滑化を目指しています。

 

国際的な枠組み作りと協働の可能性について

 

 

アジアの大手船社とCargoSmartが共同でプラットフォーム構築を目指す「Global Shipping Business Network (GSBN)」が2018年11月に設立されました。

 

このコンソーシアムはTradeLensとは異なる取り組みとしてOracle Cloud Blockchain Serviceをベースにして開発が進められています。

 

このようにMaerskとIBMの取り組みに抵抗のある船社や企業は実在し、システムの統合は現時点では難しいと考えられます。

 

国際的な枠組みについてはそれぞれのコンソーシアムごとにわかれることが予想され、国際物流のあり方も大きく変わってくることでしょう。

 

BiTAの活用事例や今後の課題

 

国際物流業界では書類のやりとりが煩雑で、仲介業者の多さから情報の透明性が低いといった問題が存在します。

 

物流量と比例して関係する企業や組織は多くなり、効率性の悪さから配送の遅延といった事態が引き起こされることも少なくありません。

 

そのような背景からブロックチェーン技術の活用を目指す取り組みが世界各国の企業や税関、港湾当局によって日々進んでいます。

 

ブロックチェーンは国際物流をより効率的なものにし、配送料の低価格化を私たちにもたらすことが期待されているのです。

 

アメリカ・テネシー州にある「BiTA(輸送業向けブロックチェーン同盟)」は国際物流におけるブロックチェーン運用の枠組み作りに取り組んでいる非営利団体です。

 

日本からも株式会社ZenportがBiTAに参加しており、世界標準のブロックチェーン開発に世界中が注目しています。

 

株式会社Zenportの取り組みについて

 

 

国際物流は輸入代金の支払いにもL/Cという支払いを保証する保証状が必要になります。

 

L/C(Letter of Credit)とは貿易決済を円滑化するための手段として、銀行が発行する支払い確約書のことです。

 

これは輸入者の取引銀行が手形信用として発行するもので、国をまたぐ輸出入にはL/Gという取引責任の制約文書も必要になります。

 

L/G(Letter of Guarantee)とは貿易取引による損害保証を明記した念書のことです。

 

これらは取引情報の信用を担保するために行われます。

 

しかし、書類によって行われるためその与信調査にかかる事務作業や決済手続きに時間がかかってしまいます。

 

この手続きを効率化するだけで、国際物流業界ではさらなる貿易機会を生み出すことができるのです。

 

株式会社Zenportはこの国際物流の非効率性に着目して立ち上げられた会社で、貿易業務の全自動化クラウドソフト「Zenport」を開発しています。

 

すでに多くの貿易会社が導入しており、企業間の協働が可能になるように機能強化を図っています。

 

将来的にブロックチェーンが実用化された場合には取引履歴がブロックチェーン上で管理されるためにデータ改ざんのリスクを無くすことができます。

 

そのことで、与信調査も銀行を通さずに行われるようになります。

 

スマートコントラクトによる決済システムは仲介業者が入り込む余地をなくすために情報の透明性を国際物流にもたらします。

 

また、これまではメールとフォルダ共有によって各書類を管理・共有してきました。

 

しかし、株式会社Zenportは輸入者、貨物運送業者、倉庫が船積情報や書類を共有できるプラットフォームによって、3社間のやり取りを軽減することに成功したのです。

 

このプラットフォームを実装したクラウドソフト「Zenport」によって輸入者と貨物運送業者のメールのやりとりを90%以上減らすといった効果が期待できます。

 

FedEx(フェディックス)の取り組みについて

 

アメリカでは5兆5000億ドルにおよぶコピー品や海賊品といった不正取引が1年間に行われており対応に追われています。

 

また、配送業社も多岐にわたっており、不正撲滅にむけても企業間の連携が必須であると言えます。

 

そのためFedExは不正取引防止にむけて国際配送においてのブロックチェーンの規格義務付けを政府が主導して行うことを強く主張しています。

 

国際配送の分野では情報共有の他にも原産地証明書や取り扱い免許が必要となり、アナログな法的書類が今でも必須となっているのが現状です。

 

このような情報を各企業がリアルタイムで共有するための手段としてブロックチェーン技術による統一的な連携が注目を集めているのです。

 

すでにFedExは競合他社であるDHLUPSと「BiTA(輸送業向けブロックチェーン同盟)」に加盟をしており、グローバルな枠組みに向けて取り組みが進められています。

 

国際的なブロックチェーン規格を設けることによって、BiTAに加盟する企業が物流を担当する国々にも浸透していくことが期待されています。

 

最終的にはトレーサビリティの正確な情報共有や追跡管理によって不正取引を減らし、正確な課税を行うことを目指しているのです。

 

全世界のサービス/物流分野ではブロックチェーンに対して101億円の支出が予想されています。(IT専門調査企業IDC調べ)

 

このため国際規格が普及するのも時間の問題といえるでしょう。

 

UPSの取り組みについて

 

UPSは荷物をスキャンするだけで自動で配送ルートを選択する自立型システムの特許を出願しています。

 

国際物流の分野においては複数の配送業社を利用しなければならないためにその管理が難しいとされています。

 

しかし、UPSはブロックチェーン技術を活用した独自システムの開発に成功しました。

 

配送状況がリアルタイムでブロックチェーンに記録されるだけでなく、配達後にはスマートコントラクトによって配送業社に支払いが行われます。

 

この仕組みが提供されるのはまだ明らかにされていませんが、国際的な取り組みの中で日本企業がどのように対応するのか注目が集まります。

 

BiTA加盟企業

 

・パナルピナ(スイス・1935年設立)
・ユナイテッド・パーセル・サービス(アメリカ・1907年設立)
・ターゲット・コーポレーション(アメリカ・1907年設立)
・ザ・ホーム・デポ(アメリカ・1978年設立)
・JD Logistics(中国・2017年設立)
・JMcLeod Software(アメリカ・1978年設立)
・Schneider National(アメリカ・1976年設立)
・Shaw industries(アメリカ・1946年設立)
・P&S Transportation(アメリカ・2004年設立)
・セールスフォース・ドットコム(アメリカ・1999年設立)
・Project44(アメリカ・2014年設立)
・10-4 Systems(アメリカ・2012年設立)
Etc,,,

 

日本国内で実用化の可能性は?

 

ヤマト運輸では1年間で18億円の荷物輸送が行われていますが、最近はドライバーの減少やラストワンマイル問題によって店頭受け取りサービスに力を入れています。

 

ラストワンマイル問題:顧客の不在が続き、何度も配送しなければならなくなるなど拠点から顧客の住居までのラストワンマイルが問題となっていること。

 

労働者減少にともない、地方での宅配など課題が浮き彫りになっているため、宅配ボックスの設置といったインフラ整備が急務となっているのです。

 

ECサイトの普及にともなう出荷量の急増によって料金の値上げに踏み切りましたが、2019年度は営業利益が前年比で5.6%増加しています。

 

さらにここ数年では、顧客満足度向上の取り組みを本格化させており、無人運転を目指す「ロボネコヤマトプロジェクト」、地域コミュニティ支援プロジェクト「ネコサポ」といったサービスを提供しています。

 

さらには「物流の見える化」を進めるためにブロックチェーン技術の導入も進めており、プラットフォームの構造改革を目指しています。

 

国際的な物流システムが大きな変貌を遂げようとしている中で、日本企業はどのような影響を受け、変化を遂げていくのかヤマト運輸の取り組みに注目が集まります。

 

参考事例

 

「メガ級船舶、メガ級積載量、メガ級のチャンス到来」(https://www.cordstrap.com/ja/About/News/-/

「ジム/トレードレンズ参加。マースク主導の電子PF」(https://www.jmd.co.jp/article.php?no=245452

NTTデータ公式サイト(https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2018/082300/

「ブロックチェーンを活用して貿易情報を共有、NEDOやNTTデータが開発へ 来年に実証実験」(https://jp.cointelegraph.com/news/ntt-date-and-nedo-start-to-make-trade-information-sharing-system-with-blockchain

「サウジアラビア政府、IBMとマースクが開発したブロックチェーンソリューション「TradeLens」を試験導入へ」(https://jp.cointelegraph.com/news/saudi-arabia-completes-ibm-tradelens-pilot-for-cross-border-blockchain-trade

「Shipping-guide」(https://shipping-guide.net/new_year/20190101.pdf

航空貨物輸送大手FedEX、ブロックチェーン利用義務付けを訴える

 

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