STOがもたらした証券取引のデジタル化と不動産ビジネスの多様化

STOが「法規制に準拠したトークンによる新しい資金調達方法」として注目を集めた2018年頃から世界各国で「暗号資産市場の健全化」や「証券のデジタル化」といった文脈で多くの議論や実証が行われてきました。

 

米国においては、SEC登録免除規定「Regulation」に準拠してSTOが実施され、「私募市場の流動性向上」や「プライベート・エクイティー市場のデジタル化」といったメリットがもたらされるとして各企業が取り組みを実施。

 

その結果、STOは単なる資金調達の効率化にとどまらず、様々な派生ビジネスの展開を促進させ、資本市場のエコシステムに小規模ながらも多様性をもたらすことにつながりました。

 

本稿では、「証券取引所による取引ビジネスのデジタル化」や「不動産ビジネスの多様化」に着目し、「セキュリティトークンIPO」といった最新事例についても解説していきます。

 

SIX Digital Exchange 2020年Q4開設へ 証券取引所による取引ビジネスのデジタル化について

スイス証券取引所(SIX Swiss Exchange)が開設に向けて取り組みを進めているデジタル証券取引所「SIX Digital Exchange(SDX)」のローンチは2020年Q4になることが発表され、「証券取引所による取引ビジネスのデジタル化」といった世界初の取り組みに大きな注目が集まっています。

 

日本でも証券会社がデジタル証券発行や実証に取り組んでおり、大阪・神戸地区でのデジタル証券取引所開設の意向をSBIホールディングス北尾吉孝社長が明らかにするなど、ブロックチェーン技術を活用した証券管理・取引の可能性を探る取り組みが行われています。

 

これまでのデジタル証券市場では、主に米国スタートアップ企業が市場を牽引している傾向にありましたが、最近ではNasdaqがデジタルアセット取引プラットフォーム提供サービスを開始するなど、既存の証券市場のプレイヤーの参入が相次いでいます。

 

世界では、ナスダック上場企業のOverStock社の株価上場とともに優先株を担保にしたOverStock社発行のデジタル証券に多くの資金が投じられ、市場全体の時価総額は2020年8月には5億ドルを突破するまでに成長。

 

独自トークンの発行をゴールドマンサックスが示唆するといった事例など、多くの企業が法規制に準拠したトークナイゼーションのあり方に関心を示している中、スイスでは証券取引所が中心となってデジタル証券市場の形成が行われようとしています。

 

デジタル証券取引所「SIX Digital Exchange(SDX)」の開設は、既存の証券市場とデジタル証券市場の統合を促進し、証券取引のデジタル化の将来性を高めることにつながることでしょう。

 

一方、米国においてはtZEROがボストンセキュリティートークン取引所(BSTX)の開設を目指していますが、Nasdaqからは「既存の証券取引所はブロックチェーンに対応していないため不当な競争をもたらす」と反対の声も挙がっています。

 

デジタル証券市場のさらなる発展に向けてはより多くのユースケースの創出による市場関係者への理解醸成が重要であるとも言えます。

 

不動産セキュリティトークン担保ローンとは?

不動産セキュリティトークンおよびレンディング事業を行う米国企業「REINNO」は、2020年1月に不動産ファンドのセキュリティトークン化プロジェクトを発表。

 

「REINNO」が発行したセキュリティトークンは、商業用不動産ファンド「REI Capital Growth」を担保にしており、総額は1億500万ドル(株式:4,000万ドル・債券:6500万ドル)に及びます。

 

「セキュリティトークン化により、海外投資家にリーチし、アメリカの商業用不動産への投資機会を提供することができます。」と、REINNOの経営者であるAlan Blairは述べています。

 

また、最近では2億3,700万ドル規模の不動産セキュリティトークンを販売しており、経験豊富な商業用不動産専門家によって管理/選定された医療施設、アパート、倉庫などを対象として不動産市場のデジタル化を推進しています。

 

1億500万ドル、2億3,700万ドルと立て続けに大規模な不動産セキュリティトークンプロジェクトを発表している「REINNO」ですが、譲渡制限(募集終了から最大1年間のロックアップ期間を設ける)の規制をうまく活用して不動産市場の流動性を向上させるチャレンジングな取り組みも行っています。

 

REINNOは独自のリスク評価モデルを開発し、不動産セキュリティトークンを担保としたローンの提供サービスを開始。

 

「不動産セキュリティトークン担保ローン」によって投資家はより多くの選択肢を得ることができ、譲渡制限を待たずとも資金流動がより円滑に行われるようになります。

 

米国市場では、これまで譲渡制限が設けられていることからセカンダリーマーケットの取引が活発に行われないといった課題を抱えていました。

 

REINNOが提供する「不動産セキュリティトークン担保ローン」は、セカンダリーマーケットの流動性を直接的に向上させることには繋がりませんが、投資家にとっては譲渡制限期間中にローンを活用して新たな投資先を見つけることができるなど、より多くのメリットを市場にもたらすことでしょう。

 

現在は、多くの有望な成長企業銘柄がセカンダリーマーケットで取引されることがセキュリティトークン市場の発展に向けては非常に重要なフェーズにあると考えられます。

 

譲渡制限期間を有効的に活用した「セキュリティトークン担保ローン」は、市場の発展に向けては大きなヒントとなるかもしれません。

 

 

セキュリティトークンIPO INX750万ドルの資金調達に成功

SECに登録された最初のセキュリティトークンIPO(first-ever SEC-registered security token IPO)を実施した「INX Limited」は、最低調達金額に定めた750万ドルをクリアしたことを発表。

 

最大で1億1,700万ドルの調達目標を掲げたこのセキュリティトークンを活用したIPOは、米国証券市場においても初めての取り組みであり、一般投資家も参加できることが1つの大きな特徴とされています。

 

未公開株式(プライベート・エクイティー)市場は、そのリスクの高さなどから一部の機関投資家しか投資することのできない市場とされてきましたが、近年では不動産やスタートアップ企業投資を一般投資家に解放する取り組みも行われ始めています。

 

今回、SECが「INX Limited」のセキュリティトークンIPOを一般投資家を対象とすることを承認したことは米国証券市場の新たな歴史を作ったとも言え、投資リスクを十分に考慮する必要はあるものの米国資本市場にさらなる厚みをもたらすと考えられます。

 

「一般投資家への未公開株式(プライベート・エクイティー)市場の門戸解放」は2020年代の資本市場においても大きなテーマとなることが予想され、「INX Limited」が目指すセキュリティトークン取引所(ATS)開設に向けた調達によってどの程度資金が集まるのか、今後も大きな注目が集まることでしょう。

 

「INX Limited」のセキュリティトークンIPOは、最低調達金額を達成したことでビットコイン、イーサリアム、USDCにの受け入れが開始されており、従来の証券市場とは異なる一般投資家参加型の「暗号資産を利用したIPO投資」によって新たな資金調達の形を世に提示しようとしています。

 

IPOでありながらも本質的にはシードラウンドのスタートアップ企業投資である今回の取り組みがどのように後世に語り継がれるのか、「INX Limited」の事業展開がより良いものになることに期待しましょう。

 

 

※セキュリティトークン、デジタル証券は同義語でありますが、本稿では原文のまま表記しています。

 

・参考文献

Swiss pass law supporting blockchain registries for security tokens

REINNO Launches a Marketplace for Tokenized Commercial Real Estate.

INX Crosses Over the Mandatory Minimum of $7.5M – Now Accepting BTC, ETH, USDC

INX Limited to Accept Cryptocurrencies as Payment as Security Token IPO Meets $7.5M Minimum