セキュリティトークンの有用性|米国株式市場のIPO数減少とプライベートエクイティ

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米国株式市場においては90年代後半から上場会社数が減少しているものの時価総額は過去最高値を更新しています。

 

上場会社数の減少の主な理由としては私募市場の規制緩和が挙げられ、ヘッジファンドやベンチャーキャピタルからの資金調達がより円滑に行われることになったことで、近年はユニコーン企業が増加している傾向になります。

 

しかしその弊害として上場前に企業価値が実態よりも高くなるオーバーバリュエーションやIPOまでの期間が長期化するといった弊害が生まれており、米国においては資本主義を支えてきた株式市場の存在意義の見直しが行われています。

 

近年では私募市場の流動性向上に向けてSTOによる資金調達なども行われており、急速に発展を遂げる先端技術分野の企業への戦略的対応など構造変化を余儀なくされているとも言えます。

 

米国株式市場の現状

 

米国株式市場では私募市場が急速に拡大にしており、2017年には「公開(公募):1.5兆ドル 私募:3兆ドル」を記録しています。

 

米国にはニューヨーク証券取引所とNASDAQを中心に計15の証券取引所が存在しており、上場企業数は1996年の8025社を頂点にして、2012年には4102社と最盛期の半数にとどまっています。

 

上場会社数の減少は様々な原因が考えられますが、M&Aによる上場廃止と私募市場での資金調達の活性化によってIPO数が減少していることが挙げられます。

 

一方、米国公開株式市場の平均時価総額は1996年の18億ドルから2017年には73億ドルとなっており、時価総額1億ドル以下の企業が減少し、時価総額が500億ドル以上の上場企業が時価総額全体の50%を占めているとされています。

 

一部企業の時価総額が増大していることで市場全体の総額は倍増しているものの、その格差は年を追うごとに広がっているといった特徴が米国公開株式市場にはあると言えます。

 

公開市場でのIPOよりも私募市場での資金調達を選ぶ企業が増加している背景には公開株式市場の構造的変化が大きな要因と考えられます。

 

時価総額が5,000万ドル以下の中小企業のIPO数が減少し、上場企業140社が時価総額全体の半数を占めている現在においてはIPO(公開市場)の見直しが図られています。

 

しかし、1996年から現在においては産業構造が変化しており、有力スタートアップ(小規模)企業は巨大資本を有する企業によるM&Aを選び、より高度な技術開発やマーケティングによって迅速な事業展開を行うといった傾向が強まっています。

 

また、技術革新は各産業のデジタル化を促進し、上場企業であっても市場環境の変化に対応できず、早期に上場廃止やM&Aの道を選ぶといった事例も少なくありません。

 

このことから企業は専門性の高い経営資源の調達をより迅速に行う必要があり、市場動向に精通しているPEやVCとの結びつきを深め、公開市場でのIPO以外の資金調達方法が活性化していると考えられます。

 

近年では金融緩和の影響もあり、米国における運用資産額は2017年に5兆ドル(2000年:1兆ドル)に達しています。IPOまでの期間が長期化し、M&Aが活発に行われている主な要因としては資本市場の構造変化と金融緩和政策が組み合わさったことが挙げられますが、法規制の側面からも米国私募市場についてみていきましょう。

米国株式市場における規制緩和の歴史

1933年:証券法

 

証券発行市場(一次市場)に関する規制。目論見書による情報開示義務や上場後の4半期ごとの財務報告書、株主移動報告書などの情報開示を制定。

 

1934年:証券取引所法

 

証券流通市場(二次市場)に関する規制。

 

1982年:レギュレーションDを創設

 

認定投資家(純資産100万ドル以上・過去2年間年間所得が20万ドル以上・夫婦の総所得が30万ドル以上の投資家)の創設

 

1996年:証券改革法 (National Securities Markets Improvement Act of 1996 NSMIA)

 

証券取引所に上場している証券をブルースカイ法(州法)の対象外とする法律。

 

この法律はレギュレーションDに準拠した私募証券も規制の対象外としており、私募市場における規制緩和の始まりとされています。

 

1997年からIPO数は減少していることからも証券改革法が現在に至るまでの私募市場の発展に大きく貢献しているとも考えられるでしょう。

 

2012年:JOBS法(Jumpstart our Business Startups Act)

 

レギュレーションA+を創設し、新興成長企業(EGC, emerging growth company)の資金調達がより円滑に行われるために規制を緩和。

 

レギュレーションA+に基づいて行われる資金調達はミニIPOとも言われています。

 

12ヶ月間の資金調達は2,000万と制限されているものの株式型クラウドファンディングの活性化に繋がっています。

 

今日に至るまでのIPO数の減少は証券改革法の制定によるところが大きいとの見方ができます。

 

また、JOBS法はレギュレーションA+の制定によって不特定多数への勧誘行為を可能とし、規則144Aによるロックアップ期間を撤廃しました。

 

このことで公募に近い形で私募市場で資金調達が行えるようになり、3兆ドル規模にまで市場は発展を遂げました。

 

現在、認定投資家の基準の見直しや暗号資産規制への取り組みが米国議会やSECを中心として行われていますが、STOの多くは不特定多数への勧誘行為を可能としているレギュレーションD506(c)に準拠して行われる傾向が見受けられます。

 

規則144Aによるロックアップ期間を経て、二次市場で取り扱いが行われており、私募市場のさらなる発展に利活用が見込まれています。

 

セキュリティトークン取引所の利活用について

米国ではすでに私募市場において法規制に準拠した資金調達方法としてセキュリティトークンが普及しています。

 

カナダの取引所グループTMX Groupが運営を行うGalaxy Digital Holdings Ltd.は、公募証券の引受業務を行うアンダーライターの承認を2019年9月にFINRA(米金融取引業規制機構)から受けています。

 

Galaxy Digitalは暗号資産による資産運用や投資を行っている企業で、セキュリティトークンによる公募(digitized IPOs)についても取り組むとしています。

 

TMX Groupはカナダでスタートアップ企業向けの証券取引所「TSXベンチャー証券取引所」を運営しており、米国でもMain street Growth Actという法案によってスタートアップ企業の資金調達を行う証券取引所の開設を目指す取り組みが行われています。

 

このことからビックテックをはじめとした数百社が時価総額を増大させる公開市場、専門性が高く技術革新を目指す企業がVC、PEから資金調達を行う私募市場といったように米国株式市場は二局化に向かうことも予想されます。

 

従来の証券取引所の代替としてではなく、スタートアップ企業の新たな上場市場としてセキュリティトークン取引所を活用することで、セカンドマーケット(SecondMarket)やシェアポスト(SharesPost)といったプライベートエクイティ取引プラットフォームの機能とトークンエコノミーが融合した新たな経済圏の形成が見込まれています。

 

米国のプライベートエクイティ市場について

セカンドマーケット(SecondMarket)はプライベートエクイティ取引プラットフォームです。

 

2004年の創業以来、発行企業に対して監査済み財務データの公開を義務付けなど情報開示への取り組みを積極的に行ってきました。

 

IPO前のFacebookやPinterestなど有力な新興成長企業(EGC, emerging growth company)もセカンドマーケットで取引がされていました。

 

2015年にはNASDAQ Private Marketに買収されています。

 

SharesPostは2009年に設立され、300以上の企業数、45億ドル以上の取引高を誇るプライベートエクイティ取引プラットフォームです。

 

Ant Financial Finance、ByteDance、Spotifyといった高成長企業の株式が取引されており、FINRAにブローカーディラーとして承認を受け、SECからもATS(代替的取引システム)として登録されています。

 

そのことからセキュリティトークンの発行・取引・カストディ業務が可能とされています。

 

セキュリティトークンの店頭取引(OTC)取引もSharesPostはサポートしていますが、将来的にはリアルタイム取引を実装する計画を発表しています。

 

ブロックチェーン企業への投資を行っているベンチャーキャピタルBlockchain Capitalは発行したセキュリティトークン「BCAP」の試験的な取引をSharesPostで行っています。

 

このようにプライベートエクイティ市場で長年の経験を持つSharesPostがセキュリティトークン取引を行っているなど、情報開示の取り組みや投資環境の整備が米国ではすでに行われています。

 

成長企業が新たな投資家層獲得のためにセキュリティトークンによる資金調達を行うといった傾向は現在のところ大きくはありません。

 

しかし、お伝えしてきた通りに米国株式市場では規制緩和と流通市場の形成によって構造的な変化への対応が迫られており、セキュリティトークン取引所についても株式市場のデジタル化に向けた新たな戦略としてその有用性が試されることとなるでしょう。

 

まとめ

近年ではWework問題や上場後に株価が低迷するといった上場企業が相次いでおり、私募市場の拡大が公開市場の構造そのものを変えてしまったとも言えます。

 

従来であれば上場によってブランドイメージを構築し、認知度を高めるといった役割を担っていた公開市場ですが、今では上場が会社経営のゴールとなり、単なるマネーゲームといった印象を持つ人々も少なくありません。

 

大企業と、それ以外の差が大きくなっていることからもプライベートエクイティ取引プラットフォームやスタートアップ企業向けの取引所の有用性は今後、ますます増加することが考えられます。

 

そのような市場環境の中で、セキュリティトークン取引所は私募市場における新たな資金調達方法ならびに、既存金融とトークンエコノミーの融合を図る上で、重要な役割を担うことでしょう。

 

参考文献

米国資本市場改革の動向

アメリカ株式市場における公募・私募の境界の曖昧化について

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