SPAC(特別買収目的会社)がもたらすIPO市場と未公開株式市場の変化

この記事では「新しいタイプのベンチャーキャピタル」と称されるSPAC(特別買収目的会社)市場における最新事例を紹介していきます。

 

「IPOゴール・オーバーバリュエーション・上場企業数の減少」といった近年の米国IPO市場が抱える課題解決など、SPAC(特別買収目的会社)がもたらすIPO市場と未公開株式市場の変化の可能性についても考察していきます。

リード・ホフマン 6億ドル(約634億円)規模のSPAC IPOを計画

特別買収目的会社(SPAC)「Reinvent Technology Partners」は、8月31日付けでForm S-1をSECに提出しており、6億ドル(約634億円)にも及ぶSPAC IPOを計画しています。

 

LETTER FROM OUR CO-LEAD DIRECTORSの項目には

 

・テック企業の成長を促進する新しいタイプのベンチャーキャピタルが必要であると考えている。
・企業が成長するには、製品の発明と再発明のサイクルを市場に適応させ、投資家と調整を図りながらナビゲートし、市場のリーダーとなることが重要だが、それは容易なことではない。
・成長が見込まれるテック企業の新しいタイプのベンチャーキャピタルパートナーになり、四半期ごとに結果を出させる。

 

といった内容が記されており、従来型のIPOに至るまでの成長プロセスとは異なる新たな枠組み作りを行うことを目指していると考えられます。

 

PayPalやLinkedInを成功に導いたリード・ホフマン、ソーシャルゲーム大手企業CEOマーク・ピンカスなど経験豊富な連続起業家や実業家が「Reinvent Technology Partners」には参加しており、

 

・上場後、発明と再発明のサイクルを追求する際に課題が生じること
・次の成長への道を見つけるために、多くの場合、発明と再発明を行う必要があること

 

など、これまでの経験をふまえテック企業の成長をサポートするパートナーとなるとしています。

 

Reinvent Technology Partners Form S-1

3Dプリンタメーカー 「Desktop Metal」がSPAC「Trine Acquisition Corp」と合併

積層造形(3Dプリント)市場は、2022年までに年率30.2%の成長率で220億ドルの市場規模に達すると予測されています。(2017年売上高:60億ドル)

 

3Dプリンタメーカー 「Desktop Metal」は、世界60以上の国々で事業を展開しており、医療機器、航空宇宙、自動車産業など様々な分野で製品を提供。

 

今回、「Desktop Metal」は、2019年3月に2億6,100万ドルのIPOを実施したSPAC「Trine Acquisition Corp」と合併することを発表し、合併後の時価総額は最大25億ドルとなると推定されています。

 

少量から大規模生産まで幅広いニーズに対応した製品の設計・販売を手がけており、合併による5億7500万ドル(Trineは3億ドルの資金提供、2億7500万ドルは必要に応じたprivate investment in public equity)もの資金は、より良い製品の開発に向けた積極的な取り組みを促進することでしょう。

 

「当社のソリューションは、大規模な処理への対応と利便性を考慮して設計されています。あらゆる規模の組織が、より速く、効率よく、高レベルの緻密さと持続可能性を有した部品を製造できるようにします。私たちは上場企業としてデビューし、Trineとのパートナーシップを開始することに注力しています。Trineは、市場参入を加速し、研究開発における絶え間ない取り組みを強化するためにリソースを提供します。」(Desktop Metal CEO/Ric Fulop)

 

「Trine Acquisition Corp」のCEOであるLeo Hindery、Jr.や役員の Tom Wassermanは、合併に際して、「Additive Manufacturing 2.0」における多くの市場機会の獲得を高く評価しており、「Desktop Metal」の企業価値向上に向けて資金を投じることで、成長を加速するとしています。

 

SPAC(特別買収目的会社)がもたらすIPO市場と未公開株式市場の変化

従来の未公開株式企業は、ラウンドごとに企業価値算定を行い、ベンチャーキャピタルからの投資を集め成長していきますが、その成長戦略は競合企業の参入などによって失敗に終わることも少なくありません。

 

多額の資金を得ることによって、公開企業として急速な成長に向けた取り組みを進めることができると言ったメリットがSPACとの合併にはありますが、それを支える経験豊富なリーダーを育成することなどアドバイザリーとして企業活動にコミットメントすることもSPACには必要です。

 

「新しいタイプのベンチャーキャピタル」としてリード・ホフマンもSPACへの取り組みを進めていますが、市場の形成はまだ始まったばかりで、「IPOゴール・オーバーバリュエーション・上場企業数の減少」が大きな問題となっている米国資本市場の変革を促進するのか、それとも単なるバブルに乗じたブームで終わるのでしょうか?

 

「Desktop Metal」は、世界で最も有望な30社(世界経済フォーラム)のテクノロジーパイオニアの1社に選ばれ、MIT Technology Reviewにおいてはスマートな企業50社に選ばれるなど、世界的にも高い評価を受けているテック企業です。

 

このような企業が早期に上場企業となることは、上場企業数の減少といった課題に対しては有効である可能性もあり、SPACがもたらすIPO(上場)市場と未公開株式市場の変化についてはより多角的な考察が重要であると考えられます。

 

・参考文献

 

Reid Hoffman, Zynga’s Mark Pincus aim to raise $600M for tech-focused SPAC

Desktop Metal to Become Public, Creating the Only Listed Pure-Play Additive Manufacturing 2.0 Company

Desktop Metal going public in SPAC-led deal that could value 3D printer company at $2.5B