SPAC(特別買収目的会社)市場について|米国IPO市場の変化と投資家保護

米国では4-6月期の経済成長率速報値が前年比-32.9%(年率換算) と大幅な下落を記録しており、実体経済の回復に向けた景気対策協議も難航するなど国内では経済危機への対応が急務となっています。

 

・ファーウェイ
・ZTE
・ハイクビジョン(監視カメラ企業)
・ダーファ・テクノロジー(監視カメラ企業)
・ハイテラ(無線通信企業)

 

といった中国企業と取引を行う企業に対しても安全保障上の問題からアメリカ政府との契約更新や新規契約を禁止するとしており、多くの海外企業もその影響を受けることが予想されます。

 

2010年代の世界経済の成長を支えてきた中国企業は米国市場での展開を回避せざるをえない状況となりつつあり、17億,8000万米ドルに及ぶ資金調達ラウンドの実施を明らかにしたばかりのEpic Gamesがガイドライン違反を要因としてフォートナイトのアプリが削除されるなど、様々な領域で混乱が生じています。

 

そのような中、米国の資本市場では、SPAC(特別買収目的会社)の2020年の上場数が50社を超え、およそ2兆円にも及ぶ資金調達を実施。

 

未公開企業は従来のIPOプロセスを経ることなく、SPACによる買収や合併によって上場企業となることができます。

 

>>SPACのメリット・デメリット|ブランクチェックカンパニーを活用した裏口上場について

SPAC(特別買収目的会社)市場について

未公開企業の多くは、投資家へのIRなど企業経営そのものが上場に耐えられるレベルにないとも考えられますが、機関投資家やプライベートエクイティのサポートによってSPACへの関心は高まっており、SPACの上場による大型の資金調達と企業買収・合併は米国資本市場に大きな可能性とリスクをもたらしています。

 

昨年の今頃はちょうどWeWorkのオーバーバリュエーション問題が大きく報じられていましたが、2020年は奇妙な経営構造を有する「企業を買収・合併するための上場企業」に多くの投資家が引き寄せられており、買収・合併プロセスの厳格化などによる投資家保護が担保されることがSPACの普及にむけて重要であるとも考えられます。

 

IPOゴールとも言われた未公開株式投資は新たな形で米国資本市場に密かなブームを巻き起こしており、公開市場に上場する方法としてSPAC合併が普及することで流動性の向上が図られると同時に投資家保護をどのようにして実現するのかについても多くの議論が必要だとも考えられます。

 

日本でも未公開株式への積極的な投資によって、ソフトバンクが大きな損失を被っており、未公開株式投資そのものがリスクの高い投資手法であることは米国の機関投資家やプライベートエクイティが知らないはずはありませんが、近年ではSPACエコシステムの成熟化が進み、SPAC・投資家の質が向上していることもSPAC市場の拡大に繋がっています。

 

・デューデリジェンスによる未公開企業の公開市場における可能性の評価
・SPACのロードショープロセスにおける教育支援
・M&Aのアドバイザリーサービス

 

IPOブックランナーとして多くの経験を有する金融関連企業Cowen Group (COWN)では上記のような取り組みも進めており、米国IPO市場の変化と未公開株式投資の現状を認識する上でもSPAC市場の動向は今後も大きな注目を集めることでしょう。

 

>>SPAC(特別買収目的会社)がもたらすIPO市場と未公開株式市場の変化

英国 SPAC IPOで7億5,000万ドルの調達に成功

ロンドン証券取引所では、SPAC「Harvester Holdings」によるIPOによって7億5,000万ドルが調達され、米国のみならずヨーロッパにおいてもSPAC市場の拡大が進んでいます。

 

 

これは英国における初めてのSPAC IPOとして注目を集め、マリポサキャピタル創設者マーティンフランクリンとバイキンググローバルインベスターズのブライアンカウフマンが参加しているとされています。

 

SPACデータ分析企業であるSPACInsiderは、2020年のSPAC市場は総額で380億ドルを超えるgross proceedsを記録しているとしており、「新興技術企業の買収(合併)と上場」といったハイリスクな取り組みを進める「blank check company(空の小切手会社)」が今後どのように発展と損失を資本市場にもたらすのか注目が集まっています。

 

技術的進化を促進し、各産業に新たな事業を創出させることはリスクが高い一方で、世界的な低成長時代を迎えるであろう2020年代においては、その社会的重要性は高まりを見せています。

 

日本においてもベンチャーキャピタル(VC)によるベンチャー投資が2010年代には活発になりましたが、米国と英国においてはIPOによって大型の資金を調達したSPACが新興企業を買収(合併)するといった事例が確認されており、ハイリスクな企業投資が流行しています。

 

>>2021年のアメリカIPO市場予想|テック系スタートアップの大型上場について

Canoo SPAC IPOについて

 

電気自動車(EV)の開発を手がける「Canoo」は、SPAC(特別買収目的会社)「ヘネシーキャピタルアクイジション」との合併契約を締結し、IPOプロセスを経ることなくナスダック上場(ティッカーシンボル:CNOO)を予定。

 

「Canoo」独自の「スケートボードアーキテクチャ」による電気自動車(EV)の開発・設計は、より自由なデザインと生産プロセスの効率化をもたらし、Hyndai Motor Group(ヒュンダイ)と共同で電気自動車(EV)プラットフォームの開発も発表しています。

 

冒頭の動画からも分かる通り、「Canoo」が手がける電気自動車(EV)は、従来の車両とは全く異なるデザインと空間性を提供しており、テスラが牽引する電気自動車(EV)市場においてはSPACを活用したIPOが相次いで行われています。

 

・Nikola Corp.
・Fisker Inc.
・Lordstown Motors

 

2017年12月に設立された「Canoo」は、$2.4Bの評価額と推定されており、将来有望な企業がいち早くSPACを介して公開企業として上場し、そのメリットを享受する取り組みは米国資本市場にどのような影響を今後及ぼすのでしょうか?

 

>>シンガポールIPO・スタートアップ市場2020DBS Digitale Exchangeの将来性

ChargePoint SPAC IPOについて

 

2007年設立のChargePointは北米やヨーロッパにおいて電気自動車の充電事業を展開しており、今年8月には1億2,700万ドルの資金調達(シリーズHラウンド)に成功しています。

 

米国ではカリフォルニア州でガソリン車の販売が禁止されるなど、CO2排出規制によって電気自動車の需要が増加。

 

電気自動車市場においては、充電インフラへの投資は2030年までに1,900億ドルになると予想されており、世界中に115,000(2020年9月時点)を超える充電スポットを有しているChargePointには多くの投資家が注目していました。

 

そして、シリーズHラウンドにおける資金調達の発表から1ヶ月後にはSPAC「Switchback Energy Acquisition Corporation」と合併。

 

合併に関連する取引は年内に終了予定となっており、ニューヨーク証券取引所への上場後もパスカルロマーノCEOを中心に経営を継続し、さらなる成長に向けた取り組みを進めていくとしています。

 

合併後の時価総額は24億ドル・調達資金は2億2,500万ドルとされ、133,000カ所の充電スポットを増設することを今後は計画しているなど、SPACを介した事業拡大の一例としてChargePointは期待を集めています。

 

>>スイスIPO・スタートアップ市場2020|株式のトークン化やブロックチェーンIPOの可能性

SPACの今後

従来のエコシステムの中では、有望なスタートアップ企業をいち早く見つけ出し、株式市場への上場(IPO)によってベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家は大きな利益を獲得してきましたが、近年ではイグジットまでの期間が長期化する傾向にあるためVCからPEファンドへの譲渡などといった事例も確認されています。

 

また、2019年頃には「オーバーバリュエーション」「IPOゴール」といった現象が問題視されたことから未公開株式投資市場の健全化に向けた取り組みが重要であると考えられてきました。

 

一方で、米国資本市場においては株式市場からの資金調達(IPO)によって将来的に成長が見込まれる企業の買収を行う「SPAC(特別買収目的会社)」が新たなブームを巻き起こしています。

 

SPACによって合併(買収)される企業は、電気自動車のスタートアップ企業(Canoo、Fisker Inc.、Lordstown Motors、Nikola Corp.)を中心に多岐にわたります。

 

民泊仲介の大手企業である「Airbnb」は、SPAC「パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメント」から合併の打診を受けるも2020年8月にIPO申請を行うなど、未公開株式市場において知名度の高い企業もその対象とされているようです。

 

現在のところ上場後に事業が立ち行かなくなり、投資家が大きな損失を抱えたといった事例は確認されていませんが、上場企業の増加やエコシステムの再構築といったメリットとともにそのリスクについても中長期的な検証が必要であると考えられます。

 

 

・参考文献

A SPAC IPO Renaissance and the De-SPAC Communications Necessities

https://jp.techcrunch.com/2020/08/05/2020-08-03-lordstown-motors-becomes-latest-ev-automaker-to-use-a-spac-to-go-public/

Can a SPAC Be a Top Stock? Virgin Galactic and Nikola Say Yes

SPAC Market Surging for IPOs and Mergers: SPAC Roundtable Series

Fundamental Investor Interest in SPACs On Rise: SPAC Roundtable Series

De-SPAC Process – Shareholder Approval, Founder Vote Requirements, and Redemption Offer