スマートコントラクトがもたらす保険業界のデジタル化

経済協力開発機構(OECD)は、GDPに対する保険支出(総保険料の比率)を発表しており、2018年にはGDPの8.9%を保険支出が占めています。

 

1988年に前年の5%から7.4%に急激な割合の増加を記録してからは毎年7〜9%の割合でGDPに対する保険支出は推移しており、消費者が保険を適用することで安心してサービスを享受できる社会の実現は、経済活動を活性化させてきました。

 

一方で、近年ではデジタル技術を採用した保険商品の提供や予期せぬ災害の多発により投資収益が減少するなど、これまで保険業界で広く採用されてきた従来型のビジネスモデルを変革する取り組みが重要であるとされています。

 

・デジタル技術を活用した管理運用コストの削減
・より良い顧客体験の提供に向けた信頼できるデータの利活用
・情報の非対称性の改善による価格設定の最適化

 

スマートコントラクトを活用したデータ主導型のデジタル保険商品は、保険契約から決済プロセスまでの自動化を実現し、上記のようなメリットを市場にもたらします。

 

これによって保険事業者はより低い保険料と決済の迅速化を顧客に提供することができ、今後はスマートコントラクトによる自律型(および半自律型)の保険商品の開発が進むことが考えられます。

 

スマートコントラクトを活用した次世代保険商品モデル

将来的には、保険業界においても第三者機関を必要としない分散自律組織(Decentralized Autonomous Organization)の利活用といった事例の創出も予想され、スマートコントラクトによるバックエンド業務の効率化は次世代保険商品の開発による新たな市場の形成も担うことから具体的な事例を確認していきましょう。

 

IoTデバイスは、降水量、電気、圧力など外部環境で発生した様々なデータを収集し、例えば自動車保険の場合では速度やブレーキといった運転活動をはじめとして道路状況や事故の際の衝撃を監視することが可能となります。

 

スマートコントラクトの組み合わせによって、IoTデバイスからのデータを活用した割引率/保険金額の決定や支払いの自動化を実現することができ、データ主導型の保険商品の開発をIoTは促進するとされます。

 

農業保険分野でも降水量に応じたデジタル保険の開発が行われており、IoTデバイスからのデータをChainlinkの分散型オラクルを介してスマートコントラクトに送信することで、より正確で迅速な保険料の支払いを実現。

 

また、フライトステータスデータに基づいた分散型の航空保険商品の開発をEtheriscは手掛けており、Chainlinkの分散型オラクルを介してflightstats.com Web APIからのデータをスマートコントラクトに送信することで遅延保険の支払いの自動化を実現しています。

 

IoTやWeb APIといった外部システムとスマートコントラクトとの接続には分散型オラクルを利用する必要があり、Chainlinkは保険業界のみならず様々な業界の企業との連携を図っています。

 

他にもピアツーピア保険、分散自律型保険プールなど新しい保険商品の開発にスマートコントラクトは活用されており、従来の保険業界で行われてきた手作業によって信頼性を担保するシステムからより自動化されたシステムへの移行を実現することでしょう。

 

保険会社と保険契約者の双方に大きなメリットをもたらすとされるスマートコントラクトによる次世代保険商品の開発に向けては、技術的検証と規制の観点から業界の標準となる規格の制定が必要になります。

 

日本でも東京海上日動火災保険株式会社と株式会社ディーカレットが、「スマートコントラクトを用いた保険金支払業務の自動化」に関する実証実験を行っており、保険業界のデジタル化を推進するためには多くのユースケースの創出による社会的な議論を活性化が重要であると考えられます。

イタリア デジタル保険証券発行

イタリアでは大手損害保険会社「Reale Mutua」が、ミラノの埋め立て工事を保証するデジタル保険証券を発行。

 

イタリアで初めてのブロックチェーン技術を活用した「Reale Mutua」による保険証券のデジタル化プロジェクトは、詐欺の防止や運用効率の向上を実現するとされ、国家プロジェクト「Fideiussioni Digitali」の一環として実施されました。

 

「Fideiussioni Digitali」は、

 

CeTIF:金融、銀行、保険サービスの研究センター

SIA:R3社との戦略的パートナーシップを結びSIAchainを開発した技術会社

Reply:最新技術を活用したコンサルティング、システム統合サービス会社

 

といった民間企業が、イタリアの中央銀行である「Banca d’Italia」や保険監督当局IVASSと共同でプロジェクトを推進しており、これまで30社以上の企業や組織が参加しています。

 

保険管理業務のより効率的で透明性の高いプロセスの実現に向けて、2020年7月から10月にかけてブロックチェーンプラットフォームのテストをサンドボックス「Insurance Blockchain Sandbox (IBS)」で実施し、法的に有効な取り組みとして検証を行うとしています。

 

「Insurance Blockchain Sandbox (IBS)」を活用することで、保険会社は、実際の市場で製品、サービスを提供するためのプロセス、ビジネスモデル、流通の検証をすることができます。

 

天候デリバティブやフライト(手荷物)遅延を対象とした保険では、オラクルを介した正確なデータの取得によってスマートコントラクトによる自動の払い戻し手続きが可能とされており、将来的にはデジタルツールで使用および検証できるデータを対象とした様々な産業分野でのデジタル保険の可能性も示唆されています。

 

イタリアでは、サンドボックスを活用したデジタル保険のコンプライアンス検証などが行われており、「トリガー」となる状態が発生し、スマートコントラクトが自動的に補償を実施するプロセスがどれだけ運用コストの削減に繋がるのか、実用化に向けた取り組みが進行しています。

 

米国 自動車保険証明書のデジタル化

米国では40社以上の保険会社が参加するブロックチェーンコンソーシアム「Institutes RiskStream Collaborative」が活動を展開しています。

 

R3・Cordaブロックチェーンを活用した「Canopy」と呼ばれるプラットフォームを構築し、保険業界のデジタル化に着目したプロジェクトを実施。

 

最近では、大手保険会社COUNTRYFinancial等と共同で「Canopy」を活用した自動車保険証明書のデジタル化に取り組んでおり、これまで事故や違反行為の際に紙で提出していた個人証明の手続きををブロックチェーン技術を活用し、デジタル化することに成功しています。

 

RiskStream Collaborative社

 

「新型コロナウィルスの影響を受けて、より多くの消費者が非接触技術を求め、取引を行うために使用しています。ブロックチェーンソリューションはそれを可能にします」

 

としており、QRコード(またはアクセスキー)による保険情報の提示は、保険証券自体の最新の更新のみならず、保険のリアルタイム検証を可能にすることを目的としていることから非接触型の保険サービスとしてさらなる普及が見込まれます。

 

自動車保険証明書のデジタル化プロジェクトは20207月に実証テストが行われ、商用化に向けた今後の取り組みに期待が寄せられています。