今回は「ブロックチェーン×不動産」の活用事例を解説していきます。
仮想通貨を用いた資金調達(ICO)が各国の規制の外側で多くの混乱を招いて以降、 世界的に法規制に準拠した形で株式や債券をトークン化する「セキュリティトークン」とそれらを用いた資金調達であるSTO(Security Token Offering)が注目を集めています。
このセキュリティトークンは株式や債券などに止まらず、不動産にも活用できるとされており、現物不動産をトークン化することも可能となっています。
現在のところ不動産を用いた資金調達スキームは現物不動産を小口化して投資を募るスキー ムと不動産会社の株式をセキュリティトークン化して資金調達を行うスキームがあります。
アメリカでは連邦証券取引委員会(SEC)の規制に基づいて、セントレジス・アスぺンリゾートがセキュリティトークンの発行を行い、日本円にしておよそ20億円の資金調達に成功しています。
日本ではまだSTOによる資金調達の実例はありませんが、証券化されていない現物不動産は日本全国で未だ数千兆円の規模があるとされ、トークン化による流動性の向上が期待されています。
日本の不動産市場の現状
ここ数年、日本銀行が量的緩和政策を行ったことによって円安傾向が続きました。
そのため海外投資家が日本の不動産を買い漁り、不動産価格は高騰しました。
しかし、2019年に入ってからはアメリカ主導による円安ドル高是正の取り組みが行われているため、今後は円高傾向になるだろうとの声も上がっています。
円高ドル安になると日本では海外のものを安く買えるようになる一方で、海外の投資家は日本に所有する物件を高値で売却できるようになります。
即ち、円高が進めば進むほどに海外投資家は大きなリターンを得ることができるのです。
そして、日本では不動産価格が下落し、都市部においても物件の空室が増加するいわゆる空洞化現象の発生を懸念する声も上がっています。
このように、海外投資家からの投資の呼び込みが困難になると予想される今後の不動産業界ですが、ブロックチェーン技術を活用し、不動産を小口化する取り組みも始まっています。
契約の自動化や不動産情報の管理・共有による不正の防止などによって不動産の流動性が向上するといったメリットも期待されています。
将来的には円高が進み、数年先には日本へのインバウンド不動産投資が減少することも考えられます。
日本の不動産証券化・投資市場の問題点
不動産の証券化は特定目的会社を設立して不動産を証券化する方法とJ-REITのような不動産投資信託が複数の不動産に対してファンドを運用する方法の2種類があります。
J-REITは2001年から市場が日本でも誕生し、投資家から集めた資金をファンドとして不動産を運用しています。
投資家に、運用による家賃収入、売買利益を配当として分配する投資商品としてここ数年は注目を集め、安定した不動産投資として知られています。
海外の不動産は年数が経つほどに価値が向上するといった特徴があり、 堅実な投資先として知られています。
日本の場合、治安や政治が安定していることで海外の投資家からは人気を集めている一方で、地震や気候の移り変わりの激しさがリスクとして捉えられ、 築年数も短いといった特徴があります。
最近では日本の不動産は2020年の東京オリンピックを目前に控え、円安傾向が続いたことから多くの外貨による投資を呼び込みました。
しかしながら、特に価格が低いマンションは証券化されておらず、証券化されている不動産は未だ市場全体の数%とされています。
日本の不動産市場にはより多くの投資機会が残されていると考えられるでしょう。
これまで証券化されていなかった不動産はブロックチェーン技術を活用することで投資商品として提供することが可能となるため、各企業が事業化に向けて積極的に取り組みを進めているのが現状です。
さらなる不動産の流動性向上にはブロックチェーン技術の活用が必要であり、小口投資を可能にすることで投資家の参入障壁を低くする効果も得られるでしょう。
また、ブロックチェーン技術の活用によって、不動産情報の管理・共有も行えるようになります。
日本の不動産証券化・投資市場について
日本の不動産証券化市場規模はリーマンショック以降、年々増加してきており2017年には32.6兆円となっています。
不動産の証券化は、北海道や熊本といった地方都市でも行われており、スキーム別 に見ていくと以下のようにREIT(リート)による証券化不動産の取得が全体の38%を占めています。
REIT(リート):約1.83兆円
GK-TKスキーム等:約1.41兆円
TMK:約1.32兆円
不動産特定共同事業:約0.2兆円
各スキームを解説していきます。
REIT(リート)
REITは投信法第2条第12項(※1)に基づき、投資法人として設立され、投資家からの出資や金融機関からの借出金といった資産の保有を行います。
不特定の投資家から公募を行えるのが特徴で、投資口(投資法人版の株式)を発行し、 上場させることで資金調達(公募)を行います。
REITは運用権限を投資顧問に委託し 、資産保管や出納業務といった業務も信託銀行に委託します。
法律に基づき、業務は外部委託と定められ、従業員の雇用も禁止されているのが特徴です。
※1 投信法第2条第12項:投資法人は資産を主として特定資産に対する投資として運用することを目的として設立された社団をいう。
GK-TKスキーム
合同会社を設立し、投資家からの出資や金融機関からの借出金の資産保有を行います。投資家とは匿名組合(TK)契約を結び、出資を行うため匿名性の高さが特徴です。
投資家からの出資や金融機関からの借出金によって不動産信託受益権といった資産を取得し、運用します。
TMKスキーム
「資産流動化法」に基づき特定目的会社(TMK)を設立します。
投資家からは出資(優先出資)、金融機関からは負債(特定借入又は特定社債)を不動産信託受益権や現物不動産といった資産を取得し、運用します。
運用による利益によって出資に対する配当や負債の返済を行います。
不動産信託受益権の場合は運用権限を投資顧問に委託します。
資産流動化計画の提出など一定の条件をクリアする と配当金を損金として計上できるため法人税の軽減ができるといった特徴がありま す。
不動産特定共同事業
投資家からの出資によって、現物不動産の取引を行います。
この取引によって生まれた収益を投資家に分配することを不動産特定共同事業といいます。
不動産業界におけるブロックチェーン技術の活用
日本の不動産市場はREITのような公募による投資スキームの整備などによって、より多くの投資機会をもたらすことに成功しています。
しかしながら現在でも不動産証券市場の規模は不動産市場全体の数%と言われており、流動性の低さが長年の課題とされています。
そこで注目を集めているのが、ブロックチェーン技術による不動産情報の管理・共有や小口化による流動性の向上になります。
また、日本では不動産業者ごとに情報を所有しているため、情報の改ざんや借 りる側に不利な契約条件を盛り込むといったことが比較的容易に可能となっています。
インターネットで不動産情報を確認する際にも不動産会社ごとに情報が異なっているなど実は正当性が保証されていない実態があるのです。
これらの問題も、ブロックチェーンを用いることで解決が図れるとされており、流動化の向上と合わせて期待されています。
日本国内でも既に多くの企業が不動産業界におけるブロックチェーン活用に取り組んでおり、今後もそれらの取り組みには注目が集まります。
参考文献
お部屋探しの来店時「もう埋まってました」は近い将来になくなる?
不動産ビジネスがブロックチェーンで変わる!?そのメリットと国内事例10社
SNS
STOnlineはSNSを開始しました。
Twitter: @stonline_jp
Facebook: @sto.on.line.io
コメントを残す