パーソナルデータ連携基盤とデジタルIDがもたらすデータ個人主権時代

本稿では、国内外でのパーソナルデータ連携基盤やデジタルIDの活用事例をもとにして、データ個人主権時代について考察していきます。

 

NTTデータはパーソナルデータ連携の実証実験をCyberneticaと共同で2020年1-3月に実施しており、

 

・パーソナルデータの登録/取得

・プラットフォーム接続に必要なシステム基盤の構築

・サーバーの設定方法

 

といった取り組みを通じて、標準仕様を策定しました。

 

この実証実験は、

 

・データ提供事業者は個人の許可に基づきパーソナルデータを情報銀行(パーソナルデータストア)に委託

・情報銀行(パーソナルデータストア)は データ活用事業者へのデータ共有の許可/不許可を管理

 

といった「情報銀行の仕組みを支えるパーソナルデータプラットフォーム」とCybernetica社が開発したデータ連携基盤「UXP」とを接続し、相互接続を検証。

 

・データ連携基盤「UXP」とNTTデータイタリアの情報銀行(パーソナルデータストア)との相互接続

・国内外におけるパーソナルデータ流通に重要となる技術や環境構築

 

などについても検証がなされており、NTTデータは2020年10月を目安に「情報銀行の仕組みを支えるパーソナルデータプラットフォーム」サービスの提供を始めるとしています。

 

データ連携基盤「X-Road 」について

NTTデータが実証で使用したデータ連携基盤「UXP」は、エストニア国内で電子政府を支えるデータ連携基盤として採用されている「X-Road 」をカスタマイズして開発されています。

 

医療や税手続き、裁判所といった様々な分野において、企業活動や市民生活をサポートする目的で、データ連携基盤「X-Road 」の活用がエストニアでは広く行われており、各システムの相互運用の実現は生産性や利便性向上といった観点からも重要であるといえます。

 

また、「X-Road 」よって政府と民間システムの相互運用が可能となり、システム統合による効率的なデータ連携が実現したことで、844年分の労働時間を節約するともされています。

 

これまでGAFAなど特定の企業に収集・活用されてきたパーソナルデータへのアクセス権を個人がコントロールすることで、より安全なパーソナルデータの管理を実現することができるとされ、「X-Road 」はオープンソースとして提供されていることから千葉県市川市でも活用が行われています。

 

市川市では「X-Road 」をブロックチェーン技術と組み合わせて開発した「PlanetCross」を採用しており、行政サービスの電子化に向けて2億円の予算をシステム構築に計上するとしています。

 

「PlanetCross」は「インディビジュアル・データ ・ドリブン・ソーシャルイノベーション」をビジョンとし、「データ個人主権の新時代」の実現に向けた取り組みを進めるPlanetway Japan株式会社が開発を手がけており、日本国内では主に民間企業に対してサービスの提供を行っています。

 

このように日本国内においても地方自治体によるデータ連携基盤の採用が行われており、Planetway Japan株式会社は「PlanetID」と呼ばれるID基盤システムをエストニアの個人認証基盤をベースに開発しているなど、今後は安全性の高いデータ連携基盤とともにデジタルIDの普及も見込まれます。

 

デジタルIDを活用した信用スコアシステム|中国におけるブロックチェーン技術の導入事例

中国ではブロックチェーン技術を活用した信用スコアの管理の効率性向上への取り組みが進められており、これまで異なるシステムで管理されていた信用スコア情報を共有するデジタルIDシステム「スーパーID(超级ID)」の提供をFunchain Technology(趣链科技)とPeople Onlineが共同で行っています。

 

「スーパーID」を利用することで、省間において個別に管理されていた信用スコアデータを共有することが可能となり、人民日報オンライン世論監視センターではソーシャルメディアユーザーのコメントの監視と分析業務において過去に問題のあるコメントをした信用スコアの低いユーザーの識別が実現されるとしています。

 

中国においては国家統制を図る上でも、信用スコアの全国的なネットワークの構築は重要であり、これまでの違反行為や金融事故の履歴を省をまたいでも共有できることで、再犯の防止などにつながります。

 

日本でも信用スコアサービスが展開され、「情報銀行サンドボックス」の提供を大日本印刷(DNP)が開始するなど、市場の拡大が見込まれています。

 

・個人情報へのコントローラビリティ
・高セキュリティの管理システム

 

などの実証を通じた検証など、より良いサービスの開発が見込まれます。

 

日常生活においてもアプリごとに決済や購買を行っており、システムごとのサイロ化をどのように解消し、各サービスを横断する社会的信用システムの構築を行うのかについては、Alipayや芝麻信用を提供し、世界最大のIPOを実現するとされているAnt Groupの事例が日本企業にとっても参考になると考えられます。

 

日本ではPayPayや楽天Payが、決済サービスとして利用者を増やしており、他サービスとの相互連携や利用履歴などから信用スコアを図ることができれば、「信用スコア社会」の構築が促進されることでしょう。

 

一方で、信用スコアの算出方法がブラックボックス化している点や個人情報の利活用に関してもその透明性が担保されていないことから、社会基盤として機能するには多くの議論が必要であると言えます。

 

Funchain Technology(趣链科技)とPeople Onlineは、ビッグデータ、ブロックチェーン、AIテクノロジーを活用したデータガバナンス共有ネットワーク「一链三网」の提供も行っており、総称して「People’s Chain(人民链)」と呼ばれています。

 

Funchain Technology(趣链科技)は、ブロックチェーン技術を活用したデータガバナンスやデジタルIDシステムの開発に成功しており、その社会実装とともにブロックチェーン技術に基づく「チェーンエコロジー」を構築し、中国のデジタル経済の急速な発展を促進するとしています。

 

日本では、最新技術を活用したシステムを活用せずとも、すでに個々人が信用力を担保できる社会構造が根付いているため、ソーシャルデータガバナンスの必要性は薄いとも考えられますが、国際社会においてはデジタル化が進行しており、最新事例を参考にこれから訪れる「信用スコア社会」への対応を図ることは重要であると考えられます。

 

xIDが石川県加賀市でデジタルIDアプリの提供を開始へ

GovTech(ガブテック)=Government(政府)+Technology(技術)」の推進によって、行政においても利用者である国民、市民の目線に立ち、デジタル化に対応したサービスやシステムの構築による提供価値の向上が図られようとしています。

 

これまでの行政サービスにおいて非効率とされてきた書類でのやりとりを電子化し、官民連携による業務の効率化を図る取り組みが各国で行われる中、すでに米国やシンガポールでは政府自身が主体となってデジタル・ガバメントを推進。

 

また、デンマーク・コペンハーゲン市においてはスマートシティプロジェクトの実施にあたり、中央政府と地方自治体が一体となった行政・市民・社会のデジタル化戦略によって、一貫性のある体験価値の提供を目指しています。

 

都市設計や市民生活を含めた様々な行政に関連する機能のあり方を「利用者目線」で構築し、より良い社会基盤の形成をGovTech(ガブテック)による行政サービスのデジタル化は担っており、市民生活の利便性に向けた取り組みが各国で始まっています。

 

各産業のデジタル化が進む中、公共の概念も大きく変化を遂げることが予想され、Civictech(シビックテック)と呼ばれる市民による行政サービスのデジタル化といった事例などより多様的な社会の形成を官民が連携して実現することでしょう。

 

オンラインでの行政サービスに対してはこれまで国民や市民の多くが、その利用体験がないことから個人情報の流失など安全面が大きな争点とされてきましたが、デジタルIDの活用など信頼性の高い行政サービスの開発によるより良い社会基盤の構築が各国で行われています。

 

日本では、GovTech企業「xID(クロスアイディ)」が、ふるさと納税サイトを運営する「トラストバンク」との提携によって、全国で初めてデジタルIDアプリを活用した行政サービスのデジタル化を実現しました。

 

石川県加賀市は、市役所に「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の導入を行うなど、積極的な行政サービスのデジタル化を行っており、2019年12月に「xID(当時は旧社名の株式会社blockhive)」と提携。

 

エストニアにおける行政サービスのデジタル化の実績を有する「xID(クロスアイディ)」は、石川県加賀市が抱える人口減少や人口密度の低さを要因とした行政サービスの非効率性といった課題を解決するため、窓口に印鑑や身分証明書を持参して行っていた従来の本人確認をマイナンバーカードと連携した「デジタルID」の提供によって解決することを目指し、取り組みを進めてきました。

 

今回、「xID(クロスアイディ)」が開発を進めるデジタルIDアプリ「xID」と「トラストバンク」が提供する「LoGoフォーム電子申請」をAPI連携させることで、オンライン上での本人確認および行政サービスの利用が可能となり、石川県加賀市に住む人々は市役所に行かずとも好きな時に手続きを行うことができるようになりました。

 

デジタルIDアプリ「xID」は、近距離無線通信(NFC)でマイナンバーカードを読み取ることでオンラインでの本人確認や電子署名を可能にし、個人情報の入力や本人確認作業を効率化することで、連携サービスの利便性向上を実現。

 

石川県加賀市では人間ドック助成金申請をはじめとして様々な行政サービスへの利用を予定しており、スマートシティの構築を目指し、取り組みを進めていくとしています。

 

世界では、デジタル通貨の開発が進められており、将来的に「P2P送金・決済サービス」の利活用が普及した際にはデジタルIDによる本人確認が非常に重要な社会基盤となると考えられ、日本においてもデジタルIDアプリの社会実装が各地方自治体で進むことで、より利便性の高い市民生活の実現が図られようとしています。

 

様々な領域でデジタルIDの利活用は進むことが予想され、日本において初めて地方自治体がデジタルIDアプリを採用したことは行政サービスのデジタル化およびスマートシティの実現に向けても大きな社会的意義を有すると言えるでしょう。

 

ドイツ・国民デジタルID(eID)の普及にむけて

ドイツでは、2020年内に国民デジタルID(eID)サービスの提供が開始されることが明らかになりました。

 

Galaxy S20を利用するドイツ国民は「eIDアプリ」をダウンロードし、近距離無線通信(NFC)による身分証明の検証をクリアすることで、国民デジタルID(eID)サービスを利用できるようになります。

 

国民デジタルID(eID)の安全な保管技術の開発をSamsung Electronicsは進めており、

 

ドイツ連邦情報セキュリティ局(BSI)
ドイツ連邦印刷会社 (Bundesdruckerei)
Deutsche Telekom Security GmbH

 

といったドイツの企業、組織とともに「eGovernment」の実現に向けた取り組みを進めています。

 

Galaxy S20
Galaxy S20 +
Galaxy S20 Ultra

 

といったデバイスに「eIDアプリ」は対応しており、今後の普及に向けて大きな注目が寄せられています。

 

「eIDアプリ」での身分証明によって、

 

銀行口座の開設
電子政府サービス
医療記録へのアクセス
選挙での投票

 

といった、これまで多くの時間を費やしてきた日常的な行動をより効率化できるとされ、

 

運転免許証
国民健康保険証
車やアパートの鍵

 

をスマートフォンで安全に管理する時代が訪れようとしています。

 

日本でも数年前まではクレジットカードをスマートフォンに電子的に格納することはあまり一般的とは言えませんでしたが、現在ではApple Payなどキャッシュレス決済の普及によって、決済のデジタル化が普及しています。

 

その必要性に関しては各国における社会的システムの信用性によるところが多く存在しますが、安全で効率的な「身分証明のデジタル化」の事例としてドイツにおけるSamsungの取り組みは大きな可能性を秘めたものであると考えられます。

 

偽造防止にむけてDeutsche Telekom Security GmbHは、SamsungやBundesdruckereiとともにTSMシステムを開発し、

 

IDの転送
データストレージ管理
eIDのライフサイクル管理

 

といった機能を有し、ドイツ政府が定める厳格なセキュリティ要件を遵守する国民デジタルID(eID)サービスの提供に向けた取り組みを進めてきました。

 

より利便性の高い国民生活の実現と信頼性の高い身分証明サービスの提供の実現は、デジタル化する社会における中心的基盤として機能することが考えられます。

 

日常生活において国民デジタルID(eID)が安全に活用され、より良い社会基盤が整備されることによって、デジタル化の進展はより加速度を増していくことでしょう。

 

韓国 主要企業によるコンソーシアムとデジタルID

韓国においてはSKテレコム社が、ブロックチェーン技術を活用したスマートフォンでの保険サービスの提供を発表しています。

 

これまでは、スマートフォンが故障した際には修理センターに出向き、修理明細書と領収書がなくては保険会社への申請ができませんでした。

 

スマートフォンが故障したにも関わらず、多くの事務的な手続きとなるため、顧客にとっては、大きな負担となっていたのです。

 

SKテレコム社は顧客満足度・利便性の向上を図るため、サムスン電子サービスや保険会社と協業し、修理明細書と領収書の電子化システムを開発。

 

顧客はアプリを通じて、電子証明書を保険会社に提出し、より短時間で効率的に審査・保障をうけることができます。

 

電子証明書発行システムには、ブロックチェーン技術が導入されていることから偽造を防止でき、より安全な保険サービスを実現。

 

サムスン電子サービスとの協業を皮切りに、さまざまな企業との協業に取り組む意向をSKテレコムは示しています。

 

現在、サムスン・ギャラクシー端末を使用し、SKテレコムの携帯破損保険に加入しているユーザーは、登録手続きをせずともアプリを通じてブロックチェーン保険サービスを利用することが可能となっています。

 

韓国では、サムスン電子をなど11社の主要企業がコンソーシアム「Initial DID Federation 」を設立し、ブロックチェーン技術を活用して個人情報を安全に管理、認証するサービスの提供に取り組んでいます。

 

人々の行動データを収集、分析し、より洗練された顧客体験を提供するデジタルエコシステムの拡大が進み、個人情報の相互性が高まる一方で、プライバシーの保護については大きな課題とされてきました。

 

今回のSKテレコム社とサムスン電子サービスのブロックチェーン保険サービスにも「Initial DID(Decentralized Identity) Federation 」が提供するアプリケーション「Initial」が使用されており、韓国経済のさらなる発展に向けてブロックチェーン技術の社会実装が進んでいます。

 

「Initial DID Federation 」は、金融・医療・公共・教育など30以上の分野で電子証明書をアプリで発行することを目指しており、国内の主要金融機関と企業の証明書原本確認サービスの商用化も計画。

 

SKテレコムキム・ソンス営業本部長は「保険サービスとアプリInitialの取り組みのように、今後様々なサービス領域でブロックチェーンの技術が活用されるだろう」としています。

 

日本においても企業間連携にブロックチェーン技術を活用する取り組みがおこなわれていますが、韓国では主要企業のコンソーシアムによる市場形成が行われているのが特徴です。

 

アジアでは中国を筆頭にブロックチェーン技術の社会実装が着実に進行しており、各国のユースケースを踏まえて、日本でもデジタルエコシステムへの対応が期待されます。

 

・参考文献

 

http://itbiznews.com/news/newsview.php?ncode=1065570841472877

Samsung, BSI, Bundesdruckerei and Telekom Security Partner to Bring National ID to Your Smartphone

SBテクノロジー— blockhiveと公的個人認証を活用したデジタル身分証アプリ事業で協業

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