急速な発展が見込まれるアジア市場において、資金調達の効率化は企業活動の促進や資本市場全体の活性化につながると考えられます。
今回は、シンガポールで行われたデジタル債券発行について解説し、ブロックチェーン技術がもたらす可能性について考察していきます。
Olam International(オーラム・インターナショナル)について
※ Olam International(オーラム・インターナショナル)の紹介動画
Olam International(オーラム・インターナショナル)は、1989年に設立された農作物の販売などを手掛ける総合商社であり、各国に生産・加工拠点を有し、コーヒー豆やカカオ、穀物などを取り扱っています。
87,600人の従業員を有し、自社の農園や果樹園における栽培・生産の他にも約500万人もの農家から農作物を調達するグローバルサプライチェーン企業としてロジティクスやリスク管理サービスの提供も行っています。
ブロックチェーン市場ではChainlinkが、農業保険分野において分散オラクルネットワークを活用し、スマートコントラクトと外部システムを接続することで、降水量データの正確性を向上させる取り組みを実施しており、「インデックス保険(パラメトリック保険)」の安全性向上を実現した事例などがあり、食品の追跡や物流分野でもブロックチェーン技術の活用が進んでいます。
参照:https://stonline.io/chainlink/
そのような中、Olam International(オーラム・インターナショナル)は4億5,000万ドルのデジタル債券の発行を発表。
シンガポール証券取引所SGX:デジタルアセット発行プラットフォームの提供(Digital Assetのスマートコントラクト言語DAMLを使用)
シンガポールHSBC:オンチェーン決済ソリューションの提供により、発行企業、アレンジャー、投資家、カストディアン間での異なる通貨による決済の効率性を向上
Temasek Holdings(テマセク・ホールディングス):SGXと共同でデジタル債券プラットフォームを開発。ブロックチェーン上でそのように決済を行うのかなど、証券市場でより良いサービスを提供することをテマセクは目指しています。
上記の3社と共同でOlam International(オーラム・インターナショナル)は、デジタル債券の発行に向け、
・償還支払いの自動化
・決済リスクの軽減
・タイムリーなISIN(識別子)の生成
といった検証をパイロットテストで実施し、発行企業、引受会社、投資家といった一連のエコシステムで行われる債券発行プロセスを合理化することを目指しています。
デジタル債券発行の事例|資金調達の効率化とブロックチェーン技術
日本でも野村HDやみずほフィナンシャルグループがデジタル社債の発行を行っており、世界銀行やソシエテジェネラルSFHもブロックチェーン上での社債発行による業務効率化や資金調達の検証を実施。
アレンジャー、預託代理人、弁護士、カストディアンなど多くの参加者が連携して社債の発行は行われており、スマートコントラクトによるワークフローや資産運用プロセスのデジタル化による効率性の向上はシンガポールの債券市場の発展において重要な役割を果たすと考えられます。
また、より透明性と安全性の高い債券発行・決済プロセスを実現することは、発行企業と投資家の双方にとって大きなメリットをもたらし、迅速な資金調達はOlam International(オーラム・インターナショナル)が各国で手がける農業ビジネスの成長を促進することから資本市場全体の活性化にもつながることでしょう。
Olam International(オーラム・インターナショナル)は5億ドルに及ぶ巨額の資金調達であることから複数回に分けてデジタル債券の発行(タップ発行)を行うとしており、1回目は4億ドル(5.5年債)、残りの1億ドルは市場の動向に合わせて発行を予定しています。
アジアで初のシンジケート形式のデジタル債券発行によって大きな注目を集めるシンガポール市場は2020年代もアジア金融の中心地としてデジタル化への取り組みを着実に進めているようです。
グローバルなサプライチェーンを有し、各国において農業ビジネスによる雇用を創出しているOlam International(オーラム・インターナショナル)のような企業が積極的に資金調達のデジタル化に取り組んでいることは市場全体の発展に向けても非常に重要な意味を持つと言えるでしょう。
・参考文献
SGX, in collaboration with HSBC and Temasek, completes pilot digital bond for Olam International
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