不動産セキュリティトークンの事例|証券のデジタル化と流動性向上にむけて

ブロックチェーン技術とトークンエコノミーの発展は、新たな市場を創出した一方、対応した法規制が整備されていなかったことから、証券市場に大きな混乱をもたらしました。

 

資金調達を目的として倫理観の欠けた実態のないプロジェクトが横行したことをきっかけに、法規制に準拠し有価証券をブロックチェーン上で発行・取引するセキュリティトークンに大きな期待が寄せられましたが、2020年6月現在においてはその流動性は依然として低いままです。

 

企業にとっても従来の株式ではなくセキュリティトークンを発行するメリットが今のところないとも言え、セキュリティトークンは今後、どのように多くの投資家を惹き付けるべきか「不動産セキュリティトークン」の事例を参考に考察していきます。

 

 

2019年には各国の企業がSTOを実施し、

 

米国:SEC登録免除規定Regulationに準拠した企業の資金調達

ドイツ:BaFinからの認可を受けた不動産証券セキュリティトークンの発行

 

など、各国の法規制・規制当局の方針に基づいた市場の多様化が確認されましたが、すべてのプロジェクトがセカンダリーマーケットへの上場を行っているわけではありません。

 

米国においては1年間のロックアップ期間(譲渡制限)が設けられていることで、tZEROやOpenFinancenetworkといったセキュリティトークン取引所の上場銘柄・取引高が増加しないといった課題を抱えていましたが、最近では不動産のトークン化による流動性の向上が注目されています。

 

セキュリティトークンを発行する企業の多くは、将来的な成長が見込まれるスタートアップ企業が多く、投資家にとってはリスクの高い投資商品に該当します。

 

また、収益性や経営環境が不安定なスタートアップ企業の株式を取引するプラットフォームは多くのリスク(経営破綻・上場廃止)があるために、実際のところセキュリティトークン取引所が現在の証券市場に必要か?と問われると投資家保護の観点からは

 

・機関投資家限定

・安定的な収益が見込める資産の取引

 

などの要件を満たすことが重要であると考えられます。

 

将来的には、積極的にプライベートエクイティ投資をしたい投資家のために規制緩和を行うことも想定されますが、台湾など資本市場がそれほど大きくない国で、厳格なSTO規制が設けられていることなど、まずは発行市場においても投資家保護の観点から法整備を行うことが必要とされています。

 

現状では、第三者割当増資を実施し、ベンチャーキャピタルなどからの出資を募る事がスタートアップ企業にとっても一般的となりつつあり、

 

・ブロックチェーン上で株式をセキュリティトークンとして取り扱う

・一般投資家にも自社の株式を小口で譲渡する(証券取引所に上場しないのに譲渡制限を外す)

 

などについてはより多くの議論が必要であると言えます。

 

上記の内容を踏まえると、投資家にとってリスクの高い企業の資金調達よりも「証券化ビジネスのデジタル化」といった観点から「これまで証券化されてこなかった実物資産のトークン化」によって、セキュリティトークンの流動性向上を図ることが望ましいと言えるでしょう。

 

しかし、証券化プロセスのすべてをブロックチェーン上で行うには、公証役場で確定日付をもらう手続き・法規制が対応していない(国によっては不動産証券は株式と同様の法律で規制されている)など多くの課題が存在しています。

 

そのような中、米国では有限会社(LLC)の持分権をトークン化するスキームを活用することで不動産セキュリティトークンが実現されており、現在、11の不動産物件が100、1000と増えていけば、自ずと投資家の関心を集めることも考えられます。

 

また、不動産セキュリティトークンによる市場拡大とともに、各金融機関による資産担保証券(ABS)発行・決済にブロックチェーン技術を活用する取り組みにも注視するべきであると言え、今後はより幅広い分野で「証券のデジタル化」への取り組みが行われることでしょう。

 

不動産担保証券セキュリティトークンについて|Fundament Group(ドイツ)

 

ドイツのブロックチェーン企業「Fundament Group」は2億5000万ユーロ(2億8000万ドル)分の不動産担保証券をセキュリティトークンとして発行する計画を進めており、2019年7月18日にはBaFin(ドイツ連邦金融監督庁)に承認されたことが、明らかになりました。

 

不動産担保証券は不動産向けのローンを担保に証券化された債権のことで、今回の「Fundament Group」によるセキュリティトークン発行は、2億5000万ユーロ(2億8000万ドル)に相当する不動産で担保されていると考えられます。

 

ドイツでは今年6月にもBitbondのSTOをBaFin(ドイツ連邦金融監督庁)が承認しており、着実にSTO市場が発展を遂げている国の1つです。

 

株式をセキュリティトークンとして発行するNeufundといったプラットフォームもドイツでは誕生してきており、Fundamentの取り組みに注目が集まっています。

 

FundamentのSTOについて

 

Fundament Groupはベルリン、ハンブルク、フランクフルト、ロストック、イェーナにある5つの不動産プロジェクトをポートフォリオとして構築するとしています。

 

不動産は主にホテルや学生用アパート、幼稚園、オフィスであると目論見書では明かされています。

 

そのため今回、Fundament Groupが発行するセキュリティトークンはそれらの不動産の不動産担保証券を裏付資産としていると考えられます。

 

Fundament Groupは不動産ポートフォリオが年に約4%〜8%IRR(内部収益率)で継続的に上昇することを想定しており、それにともなった利回りを投資家には提供するとしています。

 

Ethereum BlockchainとERC-20規格によってセキュリティトークンは発行され、満期は2033年・毎年の配当が定められています。

 

債券投資について

 

債券投資は発行体が財政難に陥った場合などには債務不履行といった信用リスクがあり、運用期間中に売却する場合には価格変動によって投資した側が損失を被るといったデメリットが存在します。

 

その一方で、定期的な配当や償還日には額面返還が行われるなど、他の投資と比較すると安全性の高い投資商品として人気を集めています。

 

償還日までの運用による収益が配当として分配され、債券の価格が低下した場合にも償還日まで保有していることで、額面返還が行われます。

 

ドイツのSTO市場について

 

ドイツではセキュリティトークン発行プラットフォーム「Neufund」が運営会社である「Fifth Force GmbH」の株式をセキュリティトークンとして発行しました。

 

これにより「Fifth Force GmbH」は3,387,752ユーロの資金調達に成功しており、さらなる事業展開が期待されています。

 

この「Neufund」によるSTOを行う際には最低投資額が€100,000と定められており、BaFinとの継続的な協議の末にSTOは実施されました。

 

現在では様々な企業が「Neufund」を通じて株式のセキュリティトークン化を目指しており、今後もドイツではBaFinの規制に準拠した取り組みが行われていくと考えられます。

 

ヨーロッパではスイスマルタ共和国を中心としてブロックチェーン企業が数多く存在しますが、最近ではフランスでもブロックチェーンによる経済刺激策を盛り込んだ法案が成立しています。

 

今回のFundamentのセキュリティトークン発行は2018年12月に目論見書を提出し、承認を得るまでに7ヶ月の期間を要しました。

 

現在のところSTOの実施は各国の規制に準拠するために、多くの時間を要していますが、Fundamentのようなユースケースが増えることで、さらなる普及が期待されています。

 

 

「Resolute.Fund」について

 

アメリカでは連邦証券取引委員会(SEC)の規制に準拠して私募の範囲内でのセキュリティトークンの発行が行われています。

 

すでに発行プラットフォームとしてSecuritizeがグローバルな事業を展開し、取引所であるtZEROがさまざまなプロダクト・ブローカーディーラーと提携を結ぶなどセキュリティトークン市場形成が進んでいます。

 

Resolute.Fundはアメリカの不良債権と化した複数の不動産をポートフォリオとしてファンドの運用を行っています。

 

不良債権投資はアメリカでここ数年人気を集めており、Resolute.Fundでは主にリーマンショックで不良債権化した一般人向けの低価格な不動産をアメリカ全土から調達しています。

 

その数は100軒以上に及び、さらなる事業拡大に向けてセキュリティトークンの発行を実施しました。

 

最低投資額は個人投資家でも市場参入できる10,000USDに設定されており 、5,000,000USDが調達上限金額として設定されています。

 

Aspencoinについて

セントレジスグループは1830年に設立された伝統的で最高峰のホテル&リゾートカンパニーとして、世界的に展開し、大阪にも拠点を構えています。

 

Aspencoinは、セントレジスグループの株式を担保にSTOを実施するプロジェクトで、投資家は投資額に応じて4.7%の配当を受け取ることができることなどから1,800万ドルの資金調達に成功しています。

 

10,000USDに最低投資額が設定され、アメリカSEC Reg D 506(c)に準拠してセキュリティトークンの発行が行われました。

 

日本では「不動産のセキュリティトークン」はまだ行われていませんが、不動産投資商品としてJ-REITが注目を集めています。

 

J-REITについて

 

J-REITは証券取引所における需要と供給によって価格が決定されます。

 

J-REITは、企業が株式を発行するのと同様に「投資証券」を発行し、投資家に購入させることで資金を調達し、不動産への投資を行っています。

 

そして、J-REITでは不動産物件の売買や賃料収入による収益を決算ごと(基本的に 年に2回)に投資家に分配します。

 

上場株式と同じように価格が変動し、売買されるといった特徴があり、一般に敷居の高いとされる不動産投資を気軽に行えることで近年注目を集めています。

 

J-REITでは不動産証券化市場において、平成29年度に1.83兆円の取得実績があり、これは市場の3割強を占めています。

 

しかし、2008年には不動産価格の下落によって投資家からの資金調達や銀行からの買い入れが困難になったことで、J-REIT市場は冷え込みました。

 

ここ数年は不動産市場の活況によってJ-REITは発展を遂げましたが、J-REITには景気の影響を受けやすいといったリスクがあります。

 

STOは、各国の法規制に準拠して、株式などの有価証券をブロックチェーン技術を用いることでトークン化し 、それを資金提供者に譲渡する新しい資金調達方法のことです。

 

セキュリティトークンはブロックチェーン上で24時間取引することが可能で、小口化によって多くの投資機会を提供することが可能となります。

 

J-REITは証券取引所が開いている時間のみ取引が可能となるので、「24時間365日の取引」はセキュリティトークンの大きな特徴といえ、株価指数などとの相関性が低い金融商品として普及することも考えられます。

 

現物資産の小口投資商品は東急リバブル「レガシア」がありますが、J-REITは最低投資額は小さいものの小口化のスキームは採用していません。

 

日本 不動産業界におけるブロックチェーン活用

 

ブロックチェーン技術を活用することで不動産情報を一括で管理することが可能となり、複数の企業で共有することが可能となります。

 

現在は企業ごとに不動産情報管理システムを導入しているため、情報の改ざんといった不正を監視することが困難です。

 

そのため消費者が不利な契約を結ばされたり、書類による契約のやり取りが煩雑になったりといったデメリットが存在します。

 

ブロックチェーン技術を不動産管理システムに導入する取り組みは日本でも行われており、コンソーシアムなどの立ち上げも積極的に行われています。

 

・不動産情報コンソーシアムADRE

参加企業

(株)NTTデータ経営研究所
(株)LIFULL
全保連(株)
(株)ゼンリン
(株)ネットプロテクションズ
弁護士法人鈴木康之法律事務所
三菱UFJリース(株)
(株)エスクロー・エージェント・ジャパン

金融機関や行政も参加しており、日本での不動産情報共有プラットフォームの構築を目指しています。

 

・積水ハウス

bitFlyer社とのブロックチェーン技術による不動産情報管理システム構築事業を展開。

 

・シノケングループ

Chaintope社との提携により、ブロックチェーンによる民泊物件情報管理システムや暗号資産の開発に取り組む。

 

・RAX Mt. Fuji

河口湖近辺にあるゲストハウスのトークン化プロジェクトを2018年12月に実施。

 

 

参考文献


 

German Regulators Approve $280 Million Ethereum Token Sale

Fundament Group to Issue €250 Million in Security Tokens backed by German Real Estate

Fundament ホワイトペーパー

Erstes deutsches Immobilien-STO: Fundament Group bekommt BaFin-Lizenz

Bafin 目論見書

Fundament Group erhält Genehmigung der BaFin für Immobilien-STO

BaFin greenlights $250 million Fundament real estate token launch

そもそもJ-REITとは?

お部屋探しの来店時「もう埋まってました」は近い将来になくなる?

 

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