ブロックチェーン技術とトークンエコノミーの発展は、新たな市場を創出した一方、対応した法規制が整備されていなかったことから、証券市場に大きな混乱をもたらしました。
資金調達を目的として倫理観の欠けた実態のないプロジェクトが横行したことをきっかけに、法規制に準拠し有価証券をブロックチェーン上で発行・取引するセキュリティトークンに大きな期待が寄せられましたが、2020年6月現在においてはその流動性は依然として低いままです。
企業にとっても従来の株式ではなくセキュリティトークンを発行するメリットが今のところないとも言え、セキュリティトークンは今後、どのように多くの投資家を惹き付けるべきか「不動産セキュリティトークン」の事例を参考に考察していきます。
2019年には各国の企業がSTOを実施し、
米国:SEC登録免除規定Regulationに準拠した企業の資金調達
ドイツ:BaFinからの認可を受けた不動産証券セキュリティトークンの発行
など、各国の法規制・規制当局の方針に基づいた市場の多様化が確認されましたが、すべてのプロジェクトがセカンダリーマーケットへの上場を行っているわけではありません。
米国においては1年間のロックアップ期間(譲渡制限)が設けられていることで、tZEROやOpenFinancenetworkといったセキュリティトークン取引所の上場銘柄・取引高が増加しないといった課題を抱えていましたが、最近では不動産のトークン化による流動性の向上が注目されています。
セキュリティトークンを発行する企業の多くは、将来的な成長が見込まれるスタートアップ企業が多く、投資家にとってはリスクの高い投資商品に該当します。
また、収益性や経営環境が不安定なスタートアップ企業の株式を取引するプラットフォームは多くのリスク(経営破綻・上場廃止)があるために、実際のところセキュリティトークン取引所が現在の証券市場に必要か?と問われると投資家保護の観点からは
・機関投資家限定
・安定的な収益が見込める資産の取引
などの要件を満たすことが重要であると考えられます。
将来的には、積極的にプライベートエクイティ投資をしたい投資家のために規制緩和を行うことも想定されますが、台湾など資本市場がそれほど大きくない国で、厳格なSTO規制が設けられていることなど、まずは発行市場においても投資家保護の観点から法整備を行うことが必要とされています。
現状では、第三者割当増資を実施し、ベンチャーキャピタルなどからの出資を募る事がスタートアップ企業にとっても一般的となりつつあり、
・ブロックチェーン上で株式をセキュリティトークンとして取り扱う
・一般投資家にも自社の株式を小口で譲渡する(証券取引所に上場しないのに譲渡制限を外す)
などについてはより多くの議論が必要であると言えます。
上記の内容を踏まえると、投資家にとってリスクの高い企業の資金調達よりも「証券化ビジネスのデジタル化」といった観点から「これまで証券化されてこなかった実物資産のトークン化」によって、セキュリティトークンの流動性向上を図ることが望ましいと言えるでしょう。
しかし、証券化プロセスのすべてをブロックチェーン上で行うには、公証役場で確定日付をもらう手続き・法規制が対応していない(国によっては不動産証券は株式と同様の法律で規制されている)など多くの課題が存在しています。
そのような中、米国では有限会社(LLC)の持分権をトークン化するスキームを活用することで不動産セキュリティトークンが実現されており、現在、11の不動産物件が100、1000と増えていけば、自ずと投資家の関心を集めることも考えられます。
RealT has added its first property in the state of Florida!
272 NE 42nd Court is a single-family home located in Deerfield Beach, FL
– Asset price: $173,888.89
– Token price: $57.96
– Tokens: 3000
– Rent / Token: $4.06 / year
– Cap rate: 7.00%https://t.co/hzdSSUnoC0 pic.twitter.com/S7eBe0k9GI— RealT (@RealTPlatform) June 11, 2020
また、不動産セキュリティトークンによる市場拡大とともに、各金融機関による資産担保証券(ABS)発行・決済にブロックチェーン技術を活用する取り組みにも注視するべきであると言え、今後はより幅広い分野で「証券のデジタル化」への取り組みが行われることでしょう。
セキュリティトークン×ABS (資産担保証券)|市場規模や事例について
資産担保証券(ABS)をブロックチェーン技術を活用して発行する取り組みは各国で行われており、最近では
・フランス大手銀行ソシエテ・ジェネラルが発行したセキュリティトークン(ABS)をフランス中央銀行がCBDCを用いて決済するパイロットテストを実施
・ABSの発行、決済プロセスの透明性向上、迅速化に向けたパイロットテストを資産運用会社バンガード(Vanguard)とブロックチェーン企業Symbiontなどが共同で実施
STOが企業の新しい資金調達方法として注目を集めていますが、各国の法規制に準拠して株式、社債のみならず不動産担保証券、新築不動産プロジェクトへの参加券(securitized participation rights)を担保としてセキュリティトークンの発行も行われています。
セキュリティトークンは資金調達のみならず証券化ビジネスの多様化を担うことも想定され、より効率的な資本市場の形成に向けて着実に成長が見込まれています。
これまではセキュリティトークンに対応した法規制がないことが課題とされてきましたが、各国で法整備が進行しており、今後はユースケースの検討・創出を踏まえた規制緩和などに大きな焦点が集まることでしょう。
ブロックチェーン技術を活用した資本市場における新たなインフラを構築する取り組みは「自動化・コスト削減・流動性向上」といったメリットを各産業にもたらすとされます。
近年では、ベンチャー投資が盛んに行われリスクマネーの供給拡大が進行し、これまで流動性のなかった資産がセキュリティトークンとして広まることで、
・厚みのある資本市場の形成
・新たな投資家層の獲得
・株式と相関性が低い金融商品の創出
の実現が期待されています。
暗号資産などデジタル資産を投資ポートフォリオに加え、分散投資を図る取り組みも広まりつつある中で、非流動資産のセキュリティトークン化は、どのような影響を投資家の運用スタイルに及ぼすのでしょうか?
セキュリティトークンの市場規模

韓国のブロックチェーン企業である「Chain Partners」はSTO市場についてのレポートの中で、ABS (資産担保証券)セキュリティトークンの成長を予測しています。
現在のところ株式や社債をセキュリティトークンとして発行する取り組みが行われていますが、ドイツではFundament Groupが不動産担保証券を裏付けとしたSTOがBaFin(ドイツ連邦金融監督庁)に承認されるなど、今後はABS (資産担保証券)セキュリティトークンの発行が増加する可能性を示唆しています。
「Chain Partners」はレポート内でセキュリティトークンの市場規模は2030年まで2兆米ドルに成長し、2019-2030年には59%の年平均成長率(CAGR)になると予測しています。
ABS (資産担保証券)の仕組みや市場規模について
日本では1996年から資産担保証券の発行が行われ、企業の資金調達方法として利用されてきました。
企業は信託会社や特別目的会社(SPC)を通じて
・商業用不動産ローン担保証券(CMBS)
・住宅ローン担保証券(RMBS)
・債務担保証券(CDO):社債、貸付債権(企業向け)
といった資産の証券化を行います。
資産証券化商品の発行額は2006年に9.8兆円に達しましたが、サブプライムローン問題の影響で発行額は減少。
近年では資産証券化商品の発行額は3〜4兆円前後で推移していますが、アメリカでは2016年に約2.1兆ドルに達していることからさらなる発展に向けた取り組みが必要であると言えます。
セキュリティトークン取引市場の現状
セキュリティトークン市場においては、6月30日に時価総額が1億2000万ドルを突破し、7月4日現在では1億7000万ドルに達しています。(参照: https://stomarket.com/ )
また、セキュリティトークン取引所tzeroの親会社であるOverstockが発行するセキュリティトークン「OSTKO」は、38万ドルの取引量/日(7月2日)を記録するなど、着実に市場規模の拡大が進んでいます。
日本においても金商法が改正され、公証役場における確定日付の取得など私法上の課題について議論が交わされており、7月には不動産セキュリティトークン・デジタル通貨に関するイベントが開催されるなど、デジタルアセットへの関心が高まっています。
SBIホールディングスは、新会社「SBIデジタルマーケッツ」、「SBIデジタルテクノロジーズ」をシンガポールで設立することを明らかにしており、東南アジアのデジタルアセット市場の活性化に向けて国際的な事業展開を予定。
日本国内では、不動産やファンビジネスにおける新たなビジネスモデルの構築や課題解決にSTOの活用が見込まれており、プライマリーマーケットのみならずPTS(私設取引システム)によるセカンダリーマーケットの整備についてもSBIホールディングスは取り組んでいくとしています。
各国では不動産セキュリティトークンの取引所への上場が盛んに行われており、香港に拠点を持つ不動産企業「UPRETS」は、セーシェル共和国に設立された「MERJ Exchange」へ不動産セキュリティトークン「Oosten Digital Securities(OST-1)」を6月21日に上場。
OST-1は、ニューヨーク証券取引所に上場しているXinyuan Real Estate Co.、Ltd.(NYSE:XIN)が開発したブルックリンの中心部にある216ユニットの複合施設の部分的な所有権(partial ownership in certain units)を表しています。
※ 米国ではRealTが有限会社(LLC)の持分権のトークンをuniswapを通じて、米国以外の国々の投資家に販売しており、法規制についてはより詳細な調査を行いたいと思います。
「MERJ Exchange」では証券取引所としてアメリカ、アフリカ、アジア企業の株式上場が行われており、セキュリティトークン取引所としても機能していることもあり、時価総額が過去1年間で12億ドル(325%増加)に達しています。
これは、証券市場がブロックチェーン技術をはじめとした最先端技術の活用によって、より効率的な構造に変化していることを意味していると考えられ、従来の証券取引所のビジネスモデルのコスト削減やグローバルな証券取引が増加することを示唆しています。
「MERJ Exchange」への株式上場は、米国の消費者金融グループInvestment Evolution Corporation、中国の農業企業Burdock Industry Limited、アフリカのベンチャーファンドMinervestといった多岐に渡っており、「フェラーリF12tdf」の所有権トークン(約2億ドル規模)の上場も予定しています。
既存の証券市場とデジタルアセットの融合といった観点からは「MERJ Exchange」の取り組みは非常に興味深い事例であると考えられ、最近ではNasdaqが、トークン化されたデジタルアセット市場の多様なニーズとユニークなモデルに対応するために「Marketplace Services Platform」の設立を発表しているなど、取引所ビジネスの多角化が見込まれています。
各取引所の時価総額と取引量
Nasdaqは、Digital Asset、R3、Symbiontと協力して「Marketplace Services Platform」の開発を進めるほか、マイクロソフトと共同でデジタルアセットおよびトークン化された市場のトランザクションライフサイクルをサポートする「Nasdaq Digital Assets Suite」の提供も予定しており、Azureマーケットプレイスからもアクセスが可能とされています。
「Marketplace Services Platform」は、SaaS platform purpose-built to operate marketplaces, everywhere「あらゆる場所で市場を運営するために設計されたSaaSプラットフォーム」と説明されており、50か国以上250を超える世界の市場インフラ組織と市場参加者を支えるNasdaqの取り組みはデジタルアセット市場のさらなる発展を予感させます。
2020年6月1-28日の各取引所の時価総額と取引量は下記のようになっており、今後は既存の証券取引所のデジタルアセット市場参入によって、市場規模の拡大が見込まれます。
tZERO ( @tzeroblockchain )
Market Cap: $94,471,861.16
Volume: $1,738,997.00
OpenFinance ( @OpenfinanceIO )
Market Cap: $21,261,741.51
Volume: $5,150.00
Uniswap ( @UniswapExchange )
Market Cap: $3,668,584.73
Volume: $94,984.00
(参照: Security Token Market )
2020年に入り、Vertaloがバーボンウィスキーのトークン化をWave financialとともに行うなど、デジタルアセットは資本市場の多様化を担うとされてきました。
セキュリティトークン取引所の有用性については取引高が増加しないことを背景に懐疑的な声もあがっていましたが、証券取引所によるデジタルアセット市場の参入は市場規模の拡大をサポートするでしょう。
さらに金融機関によるブロックチェーン上でABSを発行する取り組みも行われており、不動産をはじめとしたこれまで二次流通されてこなかったアセットの流動性向上が見込まれます。
証券化されてこなかったアセットのトークン化のみならず、セカンダリーマーケットの規模拡大についてもより多くの考察が重要なフェーズをセキュリティトークン市場は迎えていると言えます。
「UPRETS」と「MERJ Exchange」の不動産セキュリティトークンの事例のほかにも、スタートアップ投資プラットフォームRepublicが不動産投資プラットフォームCompoundを買収し、「Republic Real Estate」を設立。
7月16日からは、「Reg A +」に準拠して利益分配トークン(profit-sharing token)「Republic Note」の販売を予定しており、Republicによるプライベートエクイティ投資の利益配当を個人投資家が手にする機会を提供するとしています。
米国のみならず各国においてもデジタルアセットに関する議論は活性化しており、バルサファントークン(BAR)の成功によるスポーツファンビジネスへの活用からプライムブローカーによる機関投資家の参入まであらゆる観点から考察がなされています。
また、DEX(分散型取引所)も2020年6月に過去最高の取引高を記録しており、ユニスワップ(Uniswap)など自動マーケットメーカー(AMM)の増加が市場規模の拡大を牽引。
来週、7月9日にはリトアニアにおいて世界初のCBDC(コレクター向け)の販売が予定されており、目まぐるしい技術革新の進展は資本市場に新たな可能性をもたらしています。
セキュリティトークン取引市場と米国株価指数との相関性について
セキュリティトークン取引市場においては、tZEROがブロックチェーンベースの金融商品の普及にむけて様々な事業を展開しています。
合弁会社ボストンセキュリティトークンエクスチェンジ(BSTX):ATSではなく規制された取引所としてSECと協議
Vertaloと共同でTezosブロックチェーンを用いた3億ドル規模の不動産トークンプロジェクト
ブローカーディーラーChoiceTradeの追加
Security Token Groupが発表したレポートでは2020年1-4月までセキュリティトークンの上位14銘柄に投資した場合には+2.35%のリターンを得られたことが明らかにされています。
1月:-10.46% 2月:14.78% 3月:-3.91% 4月:8.99%=+2.35%
※ 同時期のダウ平均株価:-15.67%、S&P 500:-10.60%
セキュリティトークンの上位銘柄を見ていくと、
1 Protos: +27.81%
2 Mt Pelerin: +13.57%
3 Lottery: +12.49%
4 Lesure St, Detroit, MI: +3.64% (RealT)
5 Audubon Rd, Detroit, MI: +2.66%(RealT)
6 Fullerton Ave, Detroit, MI: +1.60%(RealT)
7 Marlowe St, Detroit, MI: +1.11% (RealT)
8 Appoline St, Detroit, MI: +.31% (RealT)
9 Patton St, Detroit, MI: -3.67%(RealT)
10 tZERO: -4.10%
11 Startupbootcamp: -5%
12 SPiCE VC: -5.60%
13 Blockchain Capital: -10.03%
14 22X:年初から取引日が1日しかないため、除外しています。
など、海外のヘッジファンドや事業会社、不動産が人気であることがうかがえます。
企業が資金調達を行う方法としてがSTOを用いるには多くの時間が必要であると考えられますが、投資家がデジタル資産を投資ポートフォリオに加えるトレンドは拡大傾向にあります。
デジタル資産への関心の高まりとともに、セキュリティトークンの普及が着実に進行しているとも言えるでしょう。
2020年に入り、ビットコインは米株価指数S&P500などとの相関性が低い避難資産として広く認知されるようになりましたが、セキュリティトークンに関しても米国株式市場との相関係数が0.19(Apple:0.88)となっています。
各取引所と米国株価指数との相関性については下記のとおりです。
※取引高自体が多くはないので参考までに
・ダウ平均株価と各取引所、トークンの相関性
1 tZERO: 0.72
2 OpenFinance: 0.10
3 Uniswap: 0.16
4 Nxchange: 0.13
Blockchain Capital: 0.77
tZERO: 0.72
SPiCE VC: 0.51
|
Appoline St: -0.07
Fullerton Ave: -0.20
Protos: -0.99
全体平均: 0.18
・S&P500と各取引所、トークンの相関性
1 tZERO: 0.73
2 Uniswap: 0.18
3 Nxchange: 0.19
4 OpenFinance: 0.08
tZERO: 0.73
Blockchain Capital: 0.72
SPiCE VC: 0.49
|
Appoline St: -0.07
Fullerton Ave: -0.17
Protos: -0.99
全体平均: 0.19
13銘柄は各取引所で
OpenFinance:4
Uniswap:7
tZERO:1
Nxchange:1
といった内訳で取引されており、tZEROの相関性の高さは取引時間に起因すると分析されています。
RealTが発行する不動産トークンは、株式市場との相関性が低い傾向にあり、「デジタル資産=株式市場との相関性の低い避難資産」といったニーズに対して、最適なブロックチェーンベースの金融商品であると言えます。
企業が営む事業ごとに金融商品としての性質が異なるため、自社の株式(セキュリティトークン)が投資家にとって避難資産となるとは考えにくいですが、セキュリティトークンの普及に向けては不動産トークンなどが「株式市場との相関性の低いデジタル資産」として投資家に認知されることが重要であると考えられます。
また、24時間365日運営といった特徴も既存の株式取引所との差別化につながることでしょう。
FRBの大規模金融緩和による積極的な市場介入によって、米国株式市場と実体経済が、大きく乖離し、市場メカニズム全体が大きな変化を遂げている昨今の市場環境においては、「The most hateful rise in stock prices in history」とも言える現象が連日続いています。
金余りによって株価が上昇する中で、「株式市場との相関性の低いデジタル資産」にニーズがあるのか、今後も中長期的な市場形成が行われることでしょう。
ABS (資産担保証券)×セキュリティトークンの将来性
「Chain Partners」が発表したレポートでは、将来的にはSTOの内訳のほとんどをABSTが占めています。
投資商品としては利回りの高さが特徴的なABSは、アメリカ債券市場の3割以上を占めているなどその市場規模は大きく、ABSTは、今後10年間の中長期的な取り組みを通じて、各国でユースケースが数多く誕生することが予想されます。
しかし、ABSをST化するにあたっては各国の法規制をクリアすることが現在のところ最重要課題とされ、キャッシュフローを担保とするABSはさまざまなリスクを考慮して組成する必要があります。
アメリカでは自動車ローンのABS市場において、デフォルトの危険性が高まっており、信用度の低い層がローンの支払いを延滞しているといった実態が明らかにされています。
債務不履行の危険性がABSにはあるために、ST発行を行なった場合にも投資家に対してそのリスクを告知する必要があると言えるでしょう。
不動産担保証券セキュリティトークンについて|Fundament Group(ドイツ)
ドイツのブロックチェーン企業「Fundament Group」は2億5000万ユーロ(2億8000万ドル)分の不動産担保証券をセキュリティトークンとして発行する計画を進めており、2019年7月18日にはBaFin(ドイツ連邦金融監督庁)に承認されたことが、明らかになりました。
不動産担保証券は不動産向けのローンを担保に証券化された債権のことで、今回の「Fundament Group」によるセキュリティトークン発行は、2億5000万ユーロ(2億8000万ドル)に相当する不動産で担保されていると考えられます。
ドイツでは今年6月にもBitbondのSTOをBaFin(ドイツ連邦金融監督庁)が承認しており、着実にSTO市場が発展を遂げている国の1つです。
株式をセキュリティトークンとして発行するNeufundといったプラットフォームもドイツでは誕生してきており、Fundamentの取り組みに注目が集まっています。
FundamentのSTOについて
Fundament Groupはベルリン、ハンブルク、フランクフルト、ロストック、イェーナにある5つの不動産プロジェクトをポートフォリオとして構築するとしています。
不動産は主にホテルや学生用アパート、幼稚園、オフィスであると目論見書では明かされています。
そのため今回、Fundament Groupが発行するセキュリティトークンはそれらの不動産の不動産担保証券を裏付資産としていると考えられます。
Fundament Groupは不動産ポートフォリオが年に約4%〜8%IRR(内部収益率)で継続的に上昇することを想定しており、それにともなった利回りを投資家には提供するとしています。
Ethereum BlockchainとERC-20規格によってセキュリティトークンは発行され、満期は2033年・毎年の配当が定められています。
債券投資について
債券投資は発行体が財政難に陥った場合などには債務不履行といった信用リスクがあり、運用期間中に売却する場合には価格変動によって投資した側が損失を被るといったデメリットが存在します。
その一方で、定期的な配当や償還日には額面返還が行われるなど、他の投資と比較すると安全性の高い投資商品として人気を集めています。
償還日までの運用による収益が配当として分配され、債券の価格が低下した場合にも償還日まで保有していることで、額面返還が行われます。
ドイツのSTO市場について
ドイツではセキュリティトークン発行プラットフォーム「Neufund」が運営会社である「Fifth Force GmbH」の株式をセキュリティトークンとして発行しました。
これにより「Fifth Force GmbH」は3,387,752ユーロの資金調達に成功しており、さらなる事業展開が期待されています。
この「Neufund」によるSTOを行う際には最低投資額が€100,000と定められており、BaFinとの継続的な協議の末にSTOは実施されました。
現在では様々な企業が「Neufund」を通じて株式のセキュリティトークン化を目指しており、今後もドイツではBaFinの規制に準拠した取り組みが行われていくと考えられます。
ヨーロッパではスイスやマルタ共和国を中心としてブロックチェーン企業が数多く存在しますが、最近ではフランスでもブロックチェーンによる経済刺激策を盛り込んだ法案が成立しています。
今回のFundamentのセキュリティトークン発行は2018年12月に目論見書を提出し、承認を得るまでに7ヶ月の期間を要しました。
現在のところSTOの実施は各国の規制に準拠するために、多くの時間を要していますが、Fundamentのようなユースケースが増えることで、さらなる普及が期待されています。
「Resolute.Fund」について
アメリカでは連邦証券取引委員会(SEC)の規制に準拠して私募の範囲内でのセキュリティトークンの発行が行われています。
すでに発行プラットフォームとしてSecuritizeがグローバルな事業を展開し、取引所であるtZEROがさまざまなプロダクト・ブローカーディーラーと提携を結ぶなどセキュリティトークン市場形成が進んでいます。
Resolute.Fundはアメリカの不良債権と化した複数の不動産をポートフォリオとしてファンドの運用を行っています。
不良債権投資はアメリカでここ数年人気を集めており、Resolute.Fundでは主にリーマンショックで不良債権化した一般人向けの低価格な不動産をアメリカ全土から調達しています。
その数は100軒以上に及び、さらなる事業拡大に向けてセキュリティトークンの発行を実施しました。
最低投資額は個人投資家でも市場参入できる10,000USDに設定されており 、5,000,000USDが調達上限金額として設定されています。
Aspencoinについて
セントレジスグループは1830年に設立された伝統的で最高峰のホテル&リゾートカンパニーとして、世界的に展開し、大阪にも拠点を構えています。
Aspencoinは、セントレジスグループの株式を担保にSTOを実施するプロジェクトで、投資家は投資額に応じて4.7%の配当を受け取ることができることなどから1,800万ドルの資金調達に成功しています。
10,000USDに最低投資額が設定され、アメリカSEC Reg D 506(c)に準拠してセキュリティトークンの発行が行われました。
日本では「不動産のセキュリティトークン」はまだ行われていませんが、不動産投資商品としてJ-REITが注目を集めています。
J-REITについて
J-REITは証券取引所における需要と供給によって価格が決定されます。
J-REITは、企業が株式を発行するのと同様に「投資証券」を発行し、投資家に購入させることで資金を調達し、不動産への投資を行っています。
そして、J-REITでは不動産物件の売買や賃料収入による収益を決算ごと(基本的に 年に2回)に投資家に分配します。
上場株式と同じように価格が変動し、売買されるといった特徴があり、一般に敷居の高いとされる不動産投資を気軽に行えることで近年注目を集めています。
J-REITでは不動産証券化市場において、平成29年度に1.83兆円の取得実績があり、これは市場の3割強を占めています。
しかし、2008年には不動産価格の下落によって投資家からの資金調達や銀行からの買い入れが困難になったことで、J-REIT市場は冷え込みました。
ここ数年は不動産市場の活況によってJ-REITは発展を遂げましたが、J-REITには景気の影響を受けやすいといったリスクがあります。
STOは、各国の法規制に準拠して、株式などの有価証券をブロックチェーン技術を用いることでトークン化し 、それを資金提供者に譲渡する新しい資金調達方法のことです。
セキュリティトークンはブロックチェーン上で24時間取引することが可能で、小口化によって多くの投資機会を提供することが可能となります。
J-REITは証券取引所が開いている時間のみ取引が可能となるので、「24時間365日の取引」はセキュリティトークンの大きな特徴といえ、株価指数などとの相関性が低い金融商品として普及することも考えられます。
現物資産の小口投資商品は東急リバブル「レガシア」がありますが、J-REITは最低投資額は小さいものの小口化のスキームは採用していません。
日本 不動産業界におけるブロックチェーン活用
ブロックチェーン技術を活用することで不動産情報を一括で管理することが可能となり、複数の企業で共有することが可能となります。
現在は企業ごとに不動産情報管理システムを導入しているため、情報の改ざんといった不正を監視することが困難です。
そのため消費者が不利な契約を結ばされたり、書類による契約のやり取りが煩雑になったりといったデメリットが存在します。
ブロックチェーン技術を不動産管理システムに導入する取り組みは日本でも行われており、コンソーシアムなどの立ち上げも積極的に行われています。
・不動産情報コンソーシアムADRE
参加企業
(株)NTTデータ経営研究所
(株)LIFULL
全保連(株)
(株)ゼンリン
(株)ネットプロテクションズ
弁護士法人鈴木康之法律事務所
三菱UFJリース(株)
(株)エスクロー・エージェント・ジャパン
金融機関や行政も参加しており、日本での不動産情報共有プラットフォームの構築を目指しています。
・積水ハウス
bitFlyer社とのブロックチェーン技術による不動産情報管理システム構築事業を展開。
・シノケングループ
Chaintope社との提携により、ブロックチェーンによる民泊物件情報管理システムや暗号資産の開発に取り組む。
・RAX Mt. Fuji
河口湖近辺にあるゲストハウスのトークン化プロジェクトを2018年12月に実施。
・参考文献
German Regulators Approve $280 Million Ethereum Token Sale
Fundament Group to Issue €250 Million in Security Tokens backed by German Real Estate
Erstes deutsches Immobilien-STO: Fundament Group bekommt BaFin-Lizenz
Fundament Group erhält Genehmigung der BaFin für Immobilien-STO
BaFin greenlights $250 million Fundament real estate token launch
お部屋探しの来店時「もう埋まってました」は近い将来になくなる?