インシュアテックの市場規模や事例|P2P・オンデマンド保険市場について

インシュアテックのメリット
・最先端技術を活用した保険業務の効率化
・顧客と保険会社の利益相反関係の見直し
・少額・短期間で必要なときに必要な保険が受けられる

 

AI技術(機械学習)など最先端技術を活用することで保険業界における業務効率化・新たな保険商品の提供を実現しているインシュアテックの日本国内における市場規模は2022年には2,450億円(2019年:890億円)にのぼるとされており、「規制のサンドボックス」を活用した実証に取り組む株式会社justInCaseの事例もあります。

 

近年では最先端技術を活用することで、少額・短期間で必要なときに必要な保険が受けられるようになり、シェアリングエコノミーを活用し、顧客のニーズに応じた保険商品の提供なども行われています。

 

これまで以上に保険は私たちの生活に身近なものになり、思いもよらぬ事件や事故から身を守るためにも、P2P・オンデマンド保険の活用が見込まれています。

 

今回は、P2P・オンデマンド保険市場を紹介するとともに大手保険会社とスタートアップ企業の協業についても考察していきます。

 

P2P・オンデマンド保険市場について

 

世界ではLemonade、Slice Insurance Technologies (米国)、Friendsurance(ドイツ)といった保険会社がP2P・オンデマンド保険市場を牽引しています。

 

・Lemonade

 

P2P保険の特徴
・保険への加入を希望する人々でグループを形成
・拠出した保険料はプールにして管理
・有事の際にはプールから保険料を支払い

 

P2P保険は、シェアリングエコノミーの考えをもとに、顧客のニーズに応じて幅広い分野で保険商品を作成することができ、顧客も自分たちの必要と思う保険商品を購入することができます。

 

保険会社が利益を享受するための不透明なビジネスモデルが保険業界では当たり前とされてきましが、P2P保険は、複数人で保険料を拠出し合うことで、保険の支払いリスクを分散させ、透明性の高いビジネスモデルを構築しています。

 

Lemonadeは、AI技術(機械学習)を活用して保険への加入や支払いの迅速化を実現し、チャットボットと動画を活用してスマホから短時間で手続きが行える低価格なP2P保険サービスを提供。

 

「保険会社による保険金支払いの抑制」といった、これまで保険業界が抱えていた課題を解決するとしてLemonadeは総額4億8,000万ドルを調達しており、従来の保険業務の効率を改善し、顧客体験を向上させると同時に、低価格なP2P保険サービスを提供しています。

 

レンタル保険(借家人向け):月額5ドル
住宅所有者保険(ホームオーナー向け):月額25ドル

 

また、従来の保険会社は、未請求分の保険料を利益としてきましたが、Lemonadeはギブバックシステムを採用し従来の保険会社との差別化を図っています。

 

顧客が支払う保険料は「Givebackプール」「自家再保険」「再保険の手配」「手数料(運営費)」に割り当てられ、保険請求時には「Givebackプール」から支払いが行われます。

 

そして、Lemonadeは、未請求分の保険料(Givebackプールの残高)をチャリティへ寄附金として利用するビジネスモデルを構築。

 

どのチャリティへ寄付をするかは顧客が選択することができ、その支援先に応じてグループが形成されます。

 

従来の保険会社が保険料の支払いを極力抑えることで収益を上げていた業界にLemonadeは変革をもたらしています。

 

一方で、保険料を剰余利益として翌年度以降に活用できないビジネスモデルであることから巨額の損害を被る事件・事故が発生した際に、他の保険会社に保険金支払いを引き受けてもらう再保険(保険会社のための保険)の利用が必要になると考えられます。

 

再保険会社は保険会社に対して引受に関する費用を求めることから低価格な保険サービスの競合が増加した際に、Lemonadeはどのように収益モデルを構築していくのか大きな関心が寄せられています。

 

現在は、米国では住宅所有者と賃貸人、ドイツではコンテンツと賠償責任を対象にP2P保険サービスを提供し、アムステルダムに欧州本部を設立するなど、海外展開による事業拡大を目指しています。

Lemonadeの資金調達動向
2015年4月 設立
2015年12月 シードラウンド:1,300万ドル
2016年8月 シリーズAラウンド:1,300万ドル
2016年9月 P2P保険サービスをスタート
2016年12月 シリーズBラウンド:3,400万ドル
2017年12月 シリーズCラウンド:1億2,000万ドル
2019年4月 シリーズDラウンド:3億ドル
IPOは延期とされています

 

・Friendsurance

 

Friendsuranceは、ドイツで2010年に設立され、世界初のP2P保険スタートアップ企業として業界を牽引してきました。

 

本来の保険の価値である「相互扶助」をもとに最先端技術を活用した保険商品の提供に取り組んでおり、Lemonadeは保険会社業務である一方、Friendsuranceは、保険ブローカーとして事業を展開しています。

 

家族や知人で最大15人のグループを形成し、Friendsuranceが提携している保険会社の保険に加入するといったビジネスモデルを構築しています。

 

保険加入を希望する人同士で、グループを形成する機能もFriendsuranceにはあり、ドイツではP2Pの家財保険や自動車保険の提供を行っている他、欧州各国でも事業を展開しています。

 

2016年:オーストラリアでP2P自動車保険の提供を開始

2017年:デジタル・バンカシュアランスの提供を開始

 

グループメンバーが支払った保険料はプールされ、保険請求が行われた場合にはその都度、プールから支払いが行われるといった点においてはLemonadeと同様のビジネススキームを構築しています。

 

保険請求が、プールで管理されている保険料の支払可能額を超えた場合には、提携している引受保険会社が負担します。

 

グループメンバーの支払う保険料は、前年度の実績などをもとに決定され、保険満了の際にプールの残高がある(保険請求が、プールで管理されている保険料の支払可能額を下回った)場合には保険料の返戻をメンバーは受けることができます。

 

・Slice Labs

 

保険業界ではオンデマンド保険が普及し、少額・短期間で保証を受けられるようになりました。

 

スマホからかんたんに手続きができるため

 

・休日のドライブの際に車保険に入りたい
・高価なカメラを1日だけ使用したいけど壊れたらどうしよう
・海外旅行に3泊4日で行く

 

といったケースで活用されています。

 

Slice Labsは、オンデマンド保険をはじめとして行動科学、AI、機械学習を活用した下記のサービスを開発・提供しています。

 

・INSURANCE CLOUD SERVICES

Slice Labsが提供する「Slice Insurance Cloud Services(ICS)」を利用することで、保険会社は保険商品をカスタマイズし、作成するためのインフラ(設備)に投資する必要なくオンデマンド保険の開発・提供することができます。

 

・SLICE MIND

AI技術を活用した保険業界のビジネスリスクを検知するための「業界予測サービス」をはじめとして「サイバーリスクモデリングサービス」「地理スコアAPIサービス」「詐欺検出サービス」を提供。不動産データと機械学習を組み合わせ、2,500万以上の不動産を元にした保険モデルを構築するなど、活用が行われています。

 

・Homeshare Protection:Airbnbなど宿泊施設を貸し出すホスト向けのオンデマンド保険。ゲストがいるときにだけ保険料を支払うサービスであり、時間単位で保険料が決定されます。

 

その他にも中小企業向けのサブスクリプションサイバー保険やライドシェア・配送向けのオンデマンド保険サービスの提供もSlice Labsは行っています。

 

「Slice Insurance Cloud Services(ICS)」を利用することで、保険会社は顧客のニーズに合わせて保険商品を設計・開発することができるなど従来の保険業界に大きな革新をもたらしているSlice Labsは、シリーズAラウンド(2017年10月、2018年9月)では31.6Mの調達に成功し、総額35Mの資金調達に成功しています。

 

Sliceは、SOMPOホールディングスアジアと共同で、オンデマンド旅行保険サービス(TravelJoyの強化版)を開発・提供しており、SOMPOタイランドLINE公式アカウントを通じて、サービスを受けることができます。

 

これまでの保険加入手続きには紙でのやりとりが必要で、多くの時間を必要としていました。

 

また、保険を受ける必要のない場合でも長期にわたって高額な保険料を支払う必要がありましたが、手軽にオンデマンド保険に加入できるようになれば、子供から大人まで幅広い世代が保険を利用する機会が増えることでしょう。

 

保険金詐欺は防止できる?

 

「保険会社による保険金支払いの抑制・拒絶」は長年にわたり、保険業界の課題とされてきました。

 

しかし、従来の保険会社も収益を上げるために顧客への保険金支払いの抑制・拒絶を行っているわけではなく、リスクマネジメントを重視した上で、事業運営を行っています。

 

重大な損害を被るような事件や事故は、意図的に引き起こされるケースも存在し、保険金詐欺は顧客のみならず関連する事業者との関係性なども精査する必要があります。

 

保険金詐欺防止に向けては損害に関する調査・監視コストが必要となるため、低価格で保険サービスを提供するスタートアップ企業がどのように社内で保険金詐欺防止システムを構築し、運用を行うのか、AI技術を活用した監視システムが果たして十分な効果を発揮しているのか、については注意が必要と言えます。

 

同じニーズを持つ顧客がグループを形成し、相互的な監視システムを構築することで、保険金詐欺を防止する効果がどの程度有効であるのかについては中長期的な議論が重要となると考えられます。

 

まとめ

 

SliceとSOMPOホールディングスアジア大手保険会社の事例のように大手保険会社とスタートアップ企業の協業によるP2P・オンデマンド保険の提供が進行しています。

 

大手保険会社の巨大な資本力とこれまでの実績と経験に裏打ちされたネットワークを活用し、より幅広い保険商品の提供も可能となります。

 

今後は、従来の保険会社によるインシュアテック市場への参入が進行し、これまでの収益モデルにP2P・オンデマンド保険を組み込み、より多くの人々へ新しい保険サービスの提供が見込まれます。

 

・参考文献

 

https://www.sonposoken.or.jp/media/reports/sonposokenreport124_1.pdf

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