7月10日にFRB(米連邦準備理事会)パウエル議長は7月末に利下げを行うことを示唆しました。
これは半年に一度行われる下院金融サービス委員会での議会証言で明らかにされたもので、今月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ発表が実現されると、実に10年ぶりの利下げ実施となります。
アメリカでは米中貿易摩擦問題や国内でも住宅投資や工業生産が鈍化していることで、景気拡大が減速しています。
世界的にも景気減速局面を迎えていると言え、その対応として利下げを行うとしています。
議会証言の中でパウエル議長は米中貿易摩擦問題の不確実性が世界経済全体に大きな影響を与えており、製造業や貿易、設備投資の成長が世界的に鈍化していると指摘しています。
また、アメリカでは6月の雇用統計が非農業部門雇用者数が22.4万人増加と大幅に回復したことで、今回は0.25%の利下げを行うと予想されています。
日本としては日銀のETF購入による為替操作が国際的にも問題視されていることもあり、世界的な規制緩和の流れの中でどのような政策を行うのか注目が集まります。
アメリカの利下げによる円高株安の可能性|日銀のETF買い入れについて
パウエル議長 Libra(リブラ)について懸念を表明
Facebook・Libra(リブラ)については下院金融サービス委員会のマキシン・ウォーターズ委員長(民主党)がパウエル議長に対応計画を求めていました。
パウエル議長はLibra(リブラ)については
・プライバシー
・マネーロンダリング(資金洗浄)
・消費者保護
・金融安定
これらに関して深刻な懸念を引き起こすと述べています。
暗号資産の発展は既存金融システムの安定性や秩序を乱すとして、FATFが規制強化を行っています。
Libra(リブラ)は各国の規制当局からも批判の声が上がっており、パウエル議長としても「徹底的かつ公に対処する必要がある」としています。
利下げ 日本への影響について
利下げについてはトランプ大統領が積極的にFRBに働きかけを行なっていたことで注目を集めていましたが、市場は今年度中に3〜4回の利下げをすでに織り込み済みであったことから利下げの影響は限定的との見方もあります。
景気回復に向けて世界的にも規制緩和の流れが生まれると予想されていますが、日本は世界株高との円高が進行する中で消費税増税を今年の秋にも実施するとしています。
円高による企業業績悪化への懸念と消費税増税から国内景気については先行き不透明な状況が今後は続くと予想されます。
また、イギリスのユーロ離脱や米中貿易摩擦問題の不透明感なども市場ではリスクとして懸念されており、日本は景気後退期においても利下げや減税など他国のように景気刺激策を講じることができないことが課題と言えるでしょう。
アメリカの利下げによる円高株安の可能性|日銀のETF買い入れについて
アメリカでは景気減速への懸念からFRBパウエル議長が利下げを示唆する発言を6月19日の連邦公開市場委員会(FOMC)で行いました。
「An ounce of prevention is worth a pound of cure.」は「早めの予防を行うことで、悪化は免れる」といった意味を持ち、7月30、31日のFOMCでは政策金利が2.5%から引き下げられると予想されています。
その利下げ幅が「0.25%」ごとなのか、トランプ大統領が要求する「0.5%」なのかが争点となっています。
FRBとしては投資家や市場との信頼関係を損なうことなく、段階的に利下げを行うことで市場の混乱を避けることが望まれます。
一方で、日本では利下げによる円高への警戒が強まっています。
アメリカの利下げで円高株安の可能性は?
リーマンショック時におけるアメリカ政策金利の大幅な利下げによって、日経平均は一時7000円代を割り込み、円高は90円台まで進みました。
このような景気後退期における大幅な利下げの繰り返しは市場を混乱させ、円高ドル安を加速させますが、現在のところアメリカは中国への制裁を緩和させるなど景気悪化を招くリスクを最小限に止めようとする動きが見られます。
・最近のアメリカの2018年実質GDP成長率
第1四半期(1~3月) | 前期比年率+2.3% |
第2四半期(4~6月) | 前期比年率+4.1% |
第3四半期(7~9月) | 前期比年率+3.5% |
第4四半期(10~12月) | 前期比年率+2.6% |
上記のようになっており、景気の拡大は続いているものの成長は徐々に鈍化してきていることがわかります。
今回の利下げは景気後退の予防策として長期的な景気拡大を目指すためのものであり、景気後退期における大幅な利下げとは意味合いが異なるものです。
G20において米中貿易問題が好転したことも踏まえ、利下げによる円高ドル安への影響は少ないとされています。
また、リーマンショック時に円高ドル安が進んだ要因の一つとして、安全通貨(低金利通貨)である円に対して買いが集中したことが挙げられます。
現在はスイスやスウェーデンといった国でマイナス金利を実施しており、円の他にも低金利通貨は多く存在していることから円高要因は少ないといえます。
日本銀行によるETF買い入れについて
懸念材料としては、日本銀行の金融政策(国債・ETFの買い入れ)が円安誘導・為替操作として国際的にも問題視されており、日本の金融市場の健全性が損なわれていることが挙げられます。
円高になった際に金融政策として実施が行われる可能性が高いとされていますが、これ以上の円安誘導・為替操作は国際的な非難を免れません。
中央銀行による金融市場の操作はスイスなどでも行われていますが、これ以上の国債・ETFの買い入れは日本銀行としても避けたいところでしょう。
また、日本銀行は市場の正常化にむけて長期金利の利上げを目指しており、そのような状況でのアメリカの利下げは大きな影響を日本の金融市場に及ぼす可能性があります。
国債・ETFの買い入れは前年度より抑えられており、特にETFの買い入れは月平均3872億円、年間4兆6472億円で推移しています。
ETF買い入れ推移
1月4日 | 704億円 |
1月10日 | 704億円 |
1月16日 | 704億円 |
1月29日 | 704億円 |
設備投資 | 228億円 |
合計 | 3044億円 |
2月7日 | 704億円 |
2月8日 | 704億円 |
2月15日 | 704億円 |
設備投資 | 228億円 |
合計 | 2320億円 |
3月5日 | 702億円 |
3月7日 | 702億円 |
3月8日 | 702億円 |
3月13日 | 702億円 |
3月25日 | 702億円 |
3月27日 | 702億円 |
3月28日 | 702億円 |
設備投資 | 240億円 |
合計 | 5154億円 |
4月9日 | 705億円 |
4月10日 | 705億円 |
4月11日 | 705億円 |
4月26日 | 705億円 |
設備投資 | 240億円 |
合計 | 3065億円 |
5月8日 | 707億円 |
5月9日 | 707億円 |
5月14日 | 707億円 |
5月16日 | 707億円 |
5月21日 | 707億円 |
5月23日 | 707億円 |
5月24日 | 707億円 |
5月29日 | 707億円 |
5月30日 | 707億円 |
5月31日 | 707億円 |
設備投資 | 228億円 |
合計 | 7298億円 |
6月3日 | 705億円 |
6月4日 | 705億円 |
6月13日 | 705億円 |
設備投資 | 240億円 |
合計 | 2355億円 |
アメリカの利下げに備えた減額との予想もありますが、トランプ大統領が来日した5月には買い増しが行われているのがわかります。
将来的にETFの買い入れ総額が40兆円に達した際には、日本銀行が東証一部の時価総額の6%以上を保有する日本株の最大株主となります。
金融政策として行っていたETFの買い入れですが、売却による株安を招く危険性もあり、今後の日本銀行の動向に注目が集まっています。
米中貿易摩擦とブロックチェーン|金融機関と貿易への影響
米中貿易摩擦の影響によって、アメリカでは対中輸出入学が前年比1〜2割減少し、中国でも国内総生産(GDP)を2年ぶりに引き下げるなど海外企業が他国へ生産拠点を移すといった動きも出てきています。
ベトナムでは中国に代わる生産拠点になったことで、今年の4〜6が月では実質GDP成長率が前年比6.71%の増加となっています。
アメリカと中国がお互いに報復関税を行なったことでアメリカでは大豆農家が悪影響を受けているなど、一般市民にとっても追加関税対象物品の値上げに悩まされています。
日本でも米中貿易摩擦の影響もあり、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が2四半期連続で悪化するなど、景気低迷局面を迎えています。
しかし、6月29日に行われた米中首脳会談では米中貿易交渉の再開や追加関税の延期をトランプ大統領が表明し、ファーウェイ製品のアメリカ国内への輸入についても規制緩和を行うことが明らかになりました。
このことで国際経済の回復への期待の声が高まっていますが、貿易摩擦問題による機会損失といった課題を解決するために貿易金融にブロックチェーン技術を活用する取り組みが各国の銀行を中心に行われています。
米中貿易摩擦とブロックチェーン

銀行は貿易金融サービスを提供することで、円滑な国際貿易をサポートしています。
しかしながら、米中貿易摩擦が激化したこの1年においては国際貿易企業の収益が悪化し、物流量も減少するなどコスト削減が必要不可欠になりました。
そのため銀行としてもブロックチェーン技術の導入による業務効率化を図るなど、米中貿易摩擦の影響で貿易金融は大きく変わろうとしているのです。
貿易金融サービスの効率化だけではなく、発送から受け取りまでのリアルタイムでの荷物追跡やスマートコントラクトによる取引情報の正当性の保証などもメリットとしてあげられます。
すでに国際貿易のブロックチェーン・コンソーシアムが形成されており、下記がその一例です。
「Voltron(ボルトロン)」みずほ銀行、HSBCなど12行が参加
「Marco Polo(マルコポーロ)」三井住友銀行、コメルツ銀行など14行が参加
「Batavia(バタビア)」UBS、バンク・オブ・モントリオールなど5行が参加
「we.trade(ウィートレード)」ドイツ銀行、ソシエテ・ジェネラルなど9行が参加
相互的な運用の実現にむけて、さらなる協力関係の構築が各プラットフォームでも将来的には必要となります。
さらなる貿易金融の発展にむけては業務効率化だけではなく、国際的な協同や共通の基準を定めることも重要です。
すでに世界では各銀行や税務局なども取り組みを進めており、米中貿易摩擦をきっかけとした貿易金融へのブロックチェーン導入は今後も注目を集めることでしょう。
貿易金融について

各銀行の国際営業部では貿易金融サービスを提供しており、
輸出:輸出信用状の通知 輸出手形・小切手の取立・買取
輸入:輸入信用状発行 輸入ユーザンス L/Cパック
外国為替関係保証:スタンドバイ信用状発行 入札保証・契約履行保証・前受金返還保証・荷物引取保証・関税支払保証
このような輸出入に関わる金融業務全般を「貿易金融」と言います。
貿易金融は国際的な輸出入を行う際の書類のやり取りが煩雑で非効率であることから、電子化によって作業の効率化を図る取り組みが行われていました。
しかし、貿易金融の電子化を目指した「貿易金融EDI(電子的データ交換)」は各国のインターフェースの接続や仕様調節に費用と時間がかかることが課題とされてきました。
そこで注目を集めているのが、貿易金融システムへのブロックチェーン技術の導入です。
ブロックチェーン上で情報管理・共有が可能となるため、貿易金融の現場では実証実験が行われています。
三井住友銀行 貿易金融にブロックチェーンを活用

三井住友銀行は三井物産と共同で実証実験を行い、ブロックチェーン技術を活用することで貿易金融における書類手続き時間をおよそ70%削減することに成功しています。
貿易金融における保険証券や船荷証券といった書類をブロックチェーン上で電子化することで、売買取引や内容の管理・共有がより効率的に行えるといったメリットがあります。
ブロックチェーン技術の導入は売掛債務の現金化など資金繰りの迅速化も期待でき、手続きの簡略化によってこれまで国際貿易を行ってこなかった中小企業の参入も見込めるとしています。
三井住友銀行は貿易取引手数料を新たな収入源として、2019年夏の実用化を目指しています。
中国人民銀行 ブロックチェーンで外国為替取引を実施

三井住友銀行のように貿易金融業務の効率化によるコスト削減は世界中の金融機関でも実証実験が行われています。
2019年7月には中国人民銀行がおよそ4741億円の外国為替取引をブロックチェーン技術を活用した貿易金融プラットフォームで行なったことが明らかになっています。
リアルタイムで取引情報の共有を行うことができ、決算情報もブロックチェーンで管理することができるなど、すでに深セン28行では試験運転が行われています。
中国人民銀行ではこの取り組みを今年8月にもスタートさせることを明かしており、深センだけではなく様々な国と地域での実用化も目指しています。
さらには中国人民銀行深セン支店と深セン税務局がリアルタイムで税務申告を照会・検証するために戦略的協力協定を結ぶなど、その取り組みは広がりをみせています。
貿易金融における煩雑な書類のやり取りを効率化することを目指し、中国人民銀行はブロックチェーン技術の導入を進めています。
また、中央銀行が発行するステーブルコイン 「CBCD」についても中国人民銀行では発行を目指していることが明らかになっています。
参考文献
日銀ETF買い入れ、2億円減額に潜むメッセージ-年6兆円枠で最低
Chinese Central Bank’s Blockchain Trade Platform Processed $4.36B
パウエル議長、利下げ示唆-力強い労働市場より下方リスクを強調
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