米国連邦準備制度理事会(FRB)の理事であるラエル・ブレナードは、13日に「サンフランシスコ・イノベーションオフィスアワー」でのスピーチにおいて、COVID-19の影響によって
・すべての米国に住む国民に対して即時にアクセスできる信頼性の高い決済インフラ
・財政面で厳しい経営を迫られている中小企業への即時の資金提供システム
の重要性が増していることを説明し、FRBが「FedNow」の提供に向けた取り組みを引き続き進めていることを明らかにしました。
技術革新と金融システムの現状
米国やインドなどによる中国企業を自由主義市場から締め出す取り組みが続く中、すでに中国ではデジタル人民元の実用化に向けた取り組みが進められ、アフリカ諸国においては通信インフラに中国企業の製品が多く使用されていることなど、経済的な支配によって新たな国家間の秩序や枠組み作りにつながる動きも出てきています。
日本においても中国資本によるキャピタルフライトなどを目的とした不動産や土地の取得といった事例も確認されており、デジタル化に対応した決済インフラや通貨の普及による経済的な支配が今後、どのように国際社会の形成を担うのか大きな注目が集まります。
そのような世界情勢の中で、米国および米ドルが果たす役割も変化することが予想され、FRBはブロックチェーン技術を用いた決済インフラやデジタル通貨の利活用による経済的メリット・リスク分析(プライバシー保護、不正行為防止、金融システムの安定性の担保)への取り組みが推進。
テクノロジーを活用したフィンテック企業の台頭によって、金融市場においても銀行や証券会社がデジタル化への対応を急いでおり、
・決済フローの高速化や効率性の向上
・金融包摂の拡大
・エンドユーザーコストの削減
の実現に向けて中央銀行間でも積極的な国際協力と情報交換を図る動きも見られます。
ラエル・ブレナードは、
・機械学習、自然言語処理、その他の人工知能ツールを活用してデータを分析し、金融機関が意思決定にこれらのツールをどのように使用するかを監視しています。
・運用を強化するためにクラウドコンピューティングの使用を拡大しており、サイバー攻撃からの体制強化のためサイバーセキュリティツールを引き続き強化しています。
・テクノロジーは、私たちの仕事のあらゆる側面を根本的に変えており、FRBは、適切な保護手段が講じられている場合、金融システムの回復力、効率、包括性を向上させる健全なイノベーションついて楽観的です。
と「サンフランシスコ・イノベーションオフィスアワー」で述べており、「技術革新がどのように市場原理や各組織の運営方法を変化をもたらすのか?」といったテーマに対して各国の金融機関は理解を深めることが今後は重要になると考えられます。
FRB ブロックチェーン技術やデジタル通貨に関する研究について
2019年にフェイスブックLibraが発表された際には、既存の金融システムの秩序を乱すとして大きな批判を浴び、各国で暗号資産やステーブルコインに関する法整備の重要性を認識する一方で、通貨の持つ役割の変化について多くの議論が交わされるようになりました。
その後、中国によるデジタル人民元に関する発表や2020年1月1日に施行された暗号法など、国際的にもデジタル通貨およびCBDCに関する関心が高まったことを受け、基軸通貨であるドルやユーロ、円などのデジタル化についても実証や組織編成が行われ、現在では、国民や企業への給付金を直接的に送金できる金融システムの構築などデジタル化への取り組みが各国で大きな注目を集めています。
連邦準備制度(FRS)は、現金など決済手段を補完する役割をCBDCは担うと評価し、積極的に分散型台帳技術とデジタル通貨の潜在的な活用事例に関する研究と実証を行なっており、
・CBDCに関する研究と政策開発
・デジタルドル(現金)提供の可能性の模索
などを通じて、米国国民に対して様々な決済手段へのアクセス機会を提供することを目指しています。
これまでFRSは、Board’s Technology Labを通じて潜在的な機会とリスクの理解に向けた社内実験を実施してきた経験があり、
・決済のエコシステム
・金融政策、金融の安定性
・銀行および金融に対するデジタル通貨の影響
・利用者保護
などについて連邦準備銀行の研究・開発チームが理事会の政策チームをサポートしているとラエル・ブレナードは述べています。
また、ボストン連邦準備銀行は中央銀行での利活用を目的とするデジタル通貨の実証に向けた取り組みをマサチューセッツ工科大学との共同で研究しており、オープンソースソフトウェアの開発・提供にも力を入れています。
デジタルドルとFedNowの普及にむけて
デジタル通貨への実践的な研究を踏まえ、民間部門におけるルールの制定や安全性、効率性の検証への取り組みを進めることで想定外のリスクへの対応や決済分野における可能性への理解度を高めることをFRSは目指しています。
一方、政策プロセスの推進に向けては、連邦政府以外の組織を含めた様々な利害関係者と法的に考慮すべき事項などの協議・検討が必要となり、CBDCについては従来の通貨発行規制の適用や、法定通貨としての定義(設計に応じて)などをどのように理解・解釈するかが重要であるとしています。
現在、FRBは世界各国のデジタル通貨とCBDCが及ぼす影響について時間と労力を割いており、他国の中央銀行による研究や協力を踏まえた上で、将来的に重要な政策プロセスを実施すると考えられます。
中国ではすでに国際貿易の効率化に向けデジタル人民元の実証をグレーターベイエリアから展開していくことを明らかにしており、その他の国々におけるCBDCの実用事例も踏まえた上で、基軸通貨であるドルのデジタル化の影響を考える必要が米国にはあると言えます。
特にCBDCの設計によっては他の国の管轄区域において金融システムの安定性に悪影響を及ぼすとも考えられ、マネーロンダリングやサイバーセキュリティなどが発生した場合には新たな決済システムへの信頼性の低下といった事態を招くことも予想されます。
現在、基軸通貨である米ドルが世界経済において果たす役割は非常に大きなものであり、米国連邦準備制度理事会(FRB)はより慎重な議論と協議をもとにデジタルドルやFedNowへの取り組みを進めていくことでしょう。
・参考文献
An Update on Digital Currencies Governor Lael Brainard
US Federal Reserve Reveals Building a Digital Dollar Codebase With MIT
Fintech Innovation Office Hours
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