FATF解釈ノート7bの翻訳解説|トラベルルールについて

暗号資産規制

投資家保護とマネーロンダリング対策を掲げて暗号資産への規制強化を行なっているFATF(金融活動作業部会)ですが、その背景には既存の金融システムの優遇や保護にむけての思惑が交錯しているようです。

 

投資家(利用者)保護を目指し、「解釈ノートとガイダンス」では送金先の顧客情報の管理・共有を明記しています。

 

これはスマートコントラクトによる匿名での取引を否定するものであり、暗号資産取引が中央集権的な特徴を持つようになることから批判的な声が相次ぎました。

 

銀行取引と同じように取引時に名前や顧客番号が明らかになるため、暗号資産がこれまで築いてきたエコシステムそのものの見直しが図られるとも考えられます。

 

 

FATF 解釈ノート7bについて

 

FATFの「解釈ノートとガイダンス」はすでに採決が行われており、これを修正することは不可能とされていますが、すでに暗号資産のマネーロンダリング対策で使われているデータの利用を提案する声もV20では挙がっていました。

 

このまま「解釈ノートとガイダンス」が規制として成立してしまうとプライバシー保護の観点から暗号資産を使用するメリットは薄くなり、既存の金融システムにスマートコントラクトを導入したサービスを利用する機会が増えることでしょう。

 

つまり、今までのような匿名での取引が不可能になることから暗号資産の利用価値がなくなり、既存の金融システムを利用することになります。

 

これは世界中の多くの金融機関が望んでいることであり、FATFは既存の金融システムの優遇や保護を優先したとされています。

 

そして、この考えのもとになっているのが1900年代半ばに金融業界が採用したとされる「トラベルルール」であり、このルールの適用には「時代遅れ」との声があがっています。

 

しかしながら、既存の金融システムの秩序を守ることがFATFの目的であり、送金先の顧客情報共有を明記した「解釈ノートとガイダンス」をもとに各国の規制当局が規制強化を行うことで売買取引を行う当事者どうしが直接行うOTC取引の増加が懸念されています。

 

 

FATF 解釈ノート7b 原文

 

(b) R.16 – Countries should ensure that originating VASPs obtain and hold required and accurate originator information and required beneficiary information2on virtual asset transfers, submit the above information to beneficiary VASPs and counterparts (if any), and make it available on request to appropriate authorities.

 

It is not necessary for this information to be attached directly to virtual asset transfers. Countries should ensure that beneficiary VASPs obtain and hold required originator information and required and accurate beneficiary information on virtual asset transfers, and make it available on request to appropriate authorities.

 

Other requirements of R.16 (including monitoring of the availability of information, and taking freezing action and prohibiting transactions with designated persons and entities) apply on the same basis as set out in R.16

 

FATF 解釈ノート7b 翻訳

 

(b)R.16 – 各国はVASP(Virtual Asset Service Providers)が必要かつ正確な送信人の顧客情報と必要な受取人の顧客情報を暗号資産の取引時に入手・保持し、上記の情報を受取者のVASPとカウンターパートに提出すること。

 

この情報を暗号資産取引に直接添付する必要はありません。各国は受取人が使用するVASPが暗号資産取引に関する必要な送信人の情報および必要かつ正確な受取人情報を確実に入手および保持し、適切な当局への要求に応じてそれを利用できるようにすべきである。

 

R.16のその他の要求事項(情報の入手可能性の監視、凍結行為の実施および指定された個人および団体との取引の禁止を含む)は、R.16に規定されているのと同じ基準で適用される

 

FATFは「Financial Action Task Force」の略称で、日本では「金融活動作業部会」と呼ばれています。

 

1989年のアルシュ‐サミット経済宣言により設立されたマネーロンダリング対策(AML)の国際協調を推進する政府間機関として知られており、テロ資金供与対策(CFT)にもアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに取り組んでいます。

 

日本をはじめとして世界35ヶ国が参加し、非協力国・地域指定やブラックリスト策定において大きな影響力を持っている国際組織です。

 

暗号資産業界においてもAML/CFT国際基準の策定や加盟国への勧告を行なっています。

 

日本におけるFATF相互審査について

 

2008年に公表されたFATF第3次対日審査において49項目のうち25項目で要改善と評価を受けました。

 

2014年にはFATFが指摘した事項への対応の遅れによって、迅速な立法処置等を促す勧告を日本は受けています。

 

その後、2016年に「犯罪収益移転防止法」をFATF勧告に基づいた「リスクベース・アプローチ」を盛り込んだ内容に改正。

 

※リスクベース・アプローチ:リスクに応じた措置を講じ、AML/CFTのリスクを金融機関が自ら評価し、対策を講じるといった考え方のこと。

 

そし、2018年には「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を金融庁が公表し、金融機関に対するAML/CFTの改善や高度化を求めています。

 

2019年10〜11月にはFATF第4次対日審査が開始予定となっており、金融庁と金融機関がリスクベース・アプローチに基づいて対策を実施しているかが審査の重要なポイントとなるようです。

 

2020年6月にはFATF全体会議にて審査が予定されています。

 

また、FATFは1996年に「40の勧告」を公表し、2003年と2012年、2018年に改訂を行なっています。

 

「40の勧告」は法律や司法、金融の各分野において各国が遵守すべき義務や対応をまとめており、相互審査はこれに沿って行われます。

 

日本においてもAML/CFTの取り組みへの評価はこの「40の勧告」によって行われます。

 

暗号資産業界におけるFATFの取り組み

 

FATFは2015年に暗号資産交換所に対しての登録・免許制を義務付け、顧客の本人確認や記録保持義務などをまとめたガイダンスを発表しました。

 

また、2018年10月に改正された「40の勧告」では勧告15の項目「新技術の悪用防止」において暗号資産交換業者、暗号資産管理業者、ICO関連サービス業者へのAML/CFT規制が盛り込まれています。

 

勧告15: 新技術の悪用防止 仮想資産により生じるリスクを管理及び軽減するため、各国 は、仮想資産サービス業者が、マネロン・テロ資金供与対策 の目的で規制され、免許又は登録制が課されるとともに、 FATF勧告において求められる関連措置の遵守を確保し、モニタリングするための効果的なシステムを適用するための 措置を講ずるべきである。
FATF勧告 – 金融庁より引用

 

2019年2月には「勧告15(新技術の悪用防止)の解釈ノート」が発表され、2019年6月にはFATFプレナリーにおいて採択が行われています。

 

また、「GUIDANCE FOR A RISK-BASED APPROACH TO VIRTUAL ASSETS AND VIRTUAL ASSET SERVICE PROVIDERS」もあわせて採択が行われています。

 

「勧告15(新技術の悪用防止)の解釈ノート」とそのガイダンスには暗号資産サービスプロバイダーへのリスクベース・アプローチが定められており、2020年6月までに下記の対応を加盟国が行うことをFATFは推奨しています。

 

・暗号資産サービスプロバイダーは免許、登録制とする
・免許や登録がない場合には制裁処置を講じる
・各国の規制当局は免許の制限、停止を必要に応じて講じる
・各国の規制当局は金融制裁を執行する権限を持つべきである

 

暗号資産規制の今後は?

 

2019年6月8、9日に開催された「G20財務相・中央銀行総裁会議」では「勧告15(新技術の悪用防止)の解釈ノート」の採択を期待するといった声明が発表されました。

 

そして、6月21日にはFATFプレナリーにおいて採択が行われ、G20大阪サミットにて「勧告15(新技術の悪用防止)の解釈ノート」とそのガイダンスを新たな国際的な規制基準として提言すると思われます。

 

今後はこの「勧告15(新技術の悪用防止)の解釈ノート」が国際的な規制基準となり、暗号資産業界においてもAML/CFTの強化が行われることでしょう

 

暗号資産に関するマネーロンダリング対策の一環として国際規制団体の設立がV20サミットで行われたと明らかにされるなどFATFによる規制強化が本格化してきています。

 

法整備がなされていなかったことからICOによるスキャムプロジェクトの乱立が相次いだ暗号資産業界ですが、最近では既存の金融システムの秩序を乱すとして規制強化の声が強くなっていました。

 

ステーブルコインは新たな決済サービスとして中央銀行や大手金融機関からも注目を集めていますが、Libraのような既存の金融システムではない企業や組織による発行計画は各国の規制当局などから批判の声があがっています。

 

V20サミットで発表された暗号資産の国際規制団体については名称はまだ決まっていませんが、下記の協会が参加を表明しており、各国の暗号資産取引所などの事業者も参加することが予想されています。

 

・日本ブロックチェーン協会
・韓国ブロックチェーン協会
・香港ブロックチェーン協会
・オーストラリアデジタルコマース協会
・シンガポール仮想通貨
・ブロックチェーン産業協会
・台湾議員連盟

 

このような取り組みが行われている中で、暗号資産サービス事業者は送金先の顧客情報共有システムの開発が必須になることが予想されます。

 

そのため暗号資産取引所ではなく、すでに送金先の顧客情報共有を行ってきた中央銀行や大手金融機関のステーブルコイン開発が注目を集めることでしょう。

 

暗号資産は投資目的ではなく、既存の金融システムにスマートコントラクトを導入した決済サービスの一つとして位置付けられることも予想されます。

今回はFATFによるマネーロンダリングへの規制強化を踏まえて金融業界や暗号資産の今後について解説していきます。

 

 

参考文献

 

AIの活用により、金融機関のリスク管理改革を支援

身近に忍び寄るマネーロンダリング、対応遅れる日本の現状

【経済インサイド】日本は「マネロン天国」の汚名返上なるか 国際組織が今秋審査

AIを用いてマネーロンダリング不正取引をブロック、JSOLが実証実験

海外送金、マネロン監視にAI活用へ 三井住友銀

Public Statement – Mitigating Risks from Virtual Assets

FATFの仮想通貨マネロン対策「トラベル・ルール」なぜ議論を呼んでいる?技術面・哲学面から課題あり【独自】

FATF解釈ノートで議論を呼ぶ7bを解説 仮想通貨サービス事業者に影響

FATF、仮想通貨とマネロンで新たなガイダンスを発表 議論を呼んだ項目を維持

政府間組織FATF、仮想通貨ビジネスの送金に関するガイダンスを正式に発行

仮想通貨サービス事業者の「国際規制団体」設立へ|V20サミットで覚書締結

FATF retains ‘travel rule’ in new guidance, compelling exchanges to share customer data

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