デジタル人民元(DCEP)と米国におけるDigital Dollar Projectについて

デジタル通貨

オーストリアの経済学者・フリードリッヒ・ハイエクが唱えた「貨幣発行自由化論」は、各国が金本位制を完全撤廃し、変動為替相場制に移行した1970年代に生まれた思想です。

 

当時は、ニューディール政策など公共事業を行うことで、世界恐慌から各国経済は復活・発展を遂げていましたが、その一方で、財政赤字は増大していました。

 

このことからハイエクは政府による独占的な通貨発行ではなく、政府が管理しない複数の通貨が競争することで、新自由主義経済は正常に発展を遂げると唱えました。

 

貨幣発行に競争原理を持ち込んだ「貨幣発行自由化論」はビットコインの台頭によって再び脚光を浴び始め、国家の財政赤字およびリーマンショック以後の金融緩和競争が問題視される現代においては「貨幣の脱国営化」が強い説得力を持つようになりつつあります。

 

中国:デジタル人民元(DCEP)とブロックチェーンの社会実装

これまでは、国家および金融機関がプラットフォームとなり、通貨・金融制度が運営されてきましたが、ハイエクが唱えた「貨幣発行自由化論」の思想を背景とした暗号資産の登場によって、通貨・金融制度は大きな変革に迫られていると言えます。

 

中国では2020年1月1日に暗号法が施行されました。

 

・デジタル人民元(DCEP)による国際覇権(国際的な共通貨幣制度)への取り組み

・現在の基軸通貨である米ドルの地位を脅かす可能性

 

などを指摘する声も上がっており、今後はデジタル通貨の台頭によって国際通貨制度のあり方そのものが変化を遂げることが予想されます。

 

 

現在のところデジタル人民元がいつ発行されるかについては明らかにされていませんが、中央銀行(中国人民銀行)が発行するデジタル通貨がどのように人々の生活に普及し、国際通貨制度に影響を及ぼすのか大きな注目が集まっています。

 

また、中国ではデジタル通貨に関するテキストブック「数字货币 领导干部读本」が発売され、政府および企業がブロックチェーンプラットフォームを提供する取り組みも行われています。

 

中国政府:ブロックチェーンサービス・ネットワーク(BSN)
アント・フィナンシャル「アント・ブロックチェーン・オープン・アライアンス」
バイドゥ「Xuperchain」

 

国際通貨基金(IMF)は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入について各国へのサポートを行うとの声明を発表し、2020年1月16日にはデジタル通貨を政策優先事項とするWork Programを公表しているなど、各国はデジタル通貨への対応に迫られているとも言えます。

 

米国:デジタルドルと合成覇権通貨時代に向けて

米国の金融政策によって、新興国は不安定な経済運営(主に自国通貨安や対外債務の増大)を余儀なくされています。

 

米ドル一極の通貨体制のもとでは、市場競争のメカニズムが正常に働かないといった弊害が生まれており、米ドルの支配的影響力を低下させることが、世界経済の発展につながるといった考えから「合成覇権通貨」構想は支持を集めています。

 

主要通貨のバスケットに基づくデジタル通貨である「合成覇権通貨」の構想は英国イングランド銀行総裁であるマーク・カーニーによって提唱されました。

 

「合成覇権通貨」を国際通貨とする取り組みは、各国間で規制当局との中長期的な協議が必要であると言えますが、すでにデジタル通貨への対応を織り込んだ体制作りに向けてIMFも動いていることから実現に向けた議論は活発に行われることが予想されます。

 

ハイエクが唱えた「貨幣発行自由化論」は複数の通貨が競争することによって、経済は正常な発展を遂げるとしており、各国が米ドル建てによる取引が基本となっている現在の体制から脱却し、下記の通貨建ての取引が拡大する可能性も考えられます。

 

・デジタル人民元
・CBDC
・合成覇権通貨
・ステーブルコイン

 

金融緩和、財政支出による財政規律の喪失、通貨量および政府債務の増大など様々なリスク要因が高まりを見せる現代においては、新たな国際通貨制度を求める声は日増しに強くなっているとも言えます。

 

米ドル通貨供給量はリーマンショック以後増加を続けており、各国においても大規模な量的緩和政策によって、通貨価値は下落し続けています。

 

政府や中央銀行のコントロールが及ばない新たな通貨の普及を防止するために、規制当局は新たな国際的な規制づくりやCBDC開発を進めていますが、自国通貨の信用力および通貨価値低下といった課題にも直面しています。

 

そのような中で、米国でもNY州議員および大学教授が「独自デジタル通貨」を発表し、米商品先物取引委員会(CFTC)の議長を務めていたクリストファー・ジャンカルロは「Digital Dollar Foundation(デジタルドル財団)」を設立しました。

 

将来的なリスクを回避するためにも米国はデジタル通貨に対する対応を急ぐ必要があると言えますが、その取り組みは既存の米ドルを中心とした通貨・金融制度の秩序に変化をもたらします。

 

米ドルがデジタル化した場合、ドル建て取引を行っていた国々もそれに追随した法規制およびインフラ開発を行わなくてはならないといった弊害も存在し、その影響力からデジタルドル発行に向けては、国際的な協調が不可欠であるとも言えます。

 

ジャンカルロは“A digital dollar would help future-proof the greenback and allow individuals and global enterprises to make payments in dollars irrespective of space and time,” と述べており、「Digital Dollar Project」は、今後の国際通貨制度の行方を占う上でも大きな注目を集めることとなりそうです。

 

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