中国のIPO/スタートアップ市場の2021年の展望|規制強化と新たな市場開拓

大手繊維企業である「山東如意」が債務不履行(社債デフォルト)に陥る一方で、東南アジアの5Gインフラ整備や各国への技術支援を「華為技術(ファーウェイ)」が水面下で進めており、デジタルなテクノロジーを活用した成長市場への投資が新たな企業成長のドライバーとなることが予想されます。

 

2010年代は「アリババ」、「テンセント」に代表される中国企業の急成長が世界経済を牽引しましたが、中国政府は巨大テック企業による個人情報収集を規制する動きも見せています。

 

このことから不正会計によって米国で上場廃止となった「ラッキンコーヒー」の事例のように市場の健全性を脅かす可能性のある企業を事前に是正することが今後は重要であると言えます。

 

米国では中国企業の締め出しが進み、中国企業は香港/上海証券取引所での二重上場などで大型の資金調達を目指すケースが今後は増加すると想定され、米国の制裁下においても国内需要の高まりと海外販路の拡大によって成長を遂げる監視カメラ企業の事例のように新たな事業戦略で収益を獲得することが求められるでしょう。

 

そのような市場環境の中で、今後中国株式市場はどのような発展を遂げるのか、本稿では中国のIPO/スタートアップ市場に焦点を当て、各企業の動向を参考に解説していきます。

 

>>2021年のアメリカIPO市場予想|テック系スタートアップの大型上場について

規制強化と新たな市場開拓

中国では「アントグループ」のIPOが突然の中止に追い込まれたことを受け、フィンテック企業の多くは規制強化への対応に迫られています。

 

市場環境の変化によって、業績が大きく変化する恐れが出ていることから行き過ぎた成長戦略よりもコンプライアンスの遵守などに2020年代は重点を置いた事業構築が求められるでしょう。

 

日本やシンガポールをはじめとして世界各国では、中国におけるフィンテックエコシステムを参考に企業が積極的に金融領域に参画できる環境が構築されつつあります。

 

しかし、キャッシュレス決済を軸にスーパーアプリとして大きな成功を収めたAlipayやWechatPayにおける融資サービスが規制の対象となるなど、これまでフィンテック企業が提供してきたサービスは金融市場の安定性を損ねるリスクであるとされています。

 

中国では行き過ぎた成長によって民間企業の影響力が国家運営の支障となるとも考えられており、フィンテック企業への規制強化は2020年以降の中国経済の成長に新たな基軸をもたらすことでしょう。

 

市場環境が大きく移り変わる中でもテクノロジーを活用した新たな産業の構築が進んでおり、スタートアップ企業としてはスマート農業企業「雲洋数據(CloudYoung Data)」がプレシリーズAで数億円の資金調達に成功。

 

スマート農業は日本でも取り組みが進められていますが、「雲洋数據(CloudYoung Data)」は作付けの最適化に機械学習と自動制御システムを用いることで農作物栽培の自動化を実現。

 

IoTを活用することで、これまで人が担ってきた業務を効率化することにつながり、人件費の削減やより最適化された栽培/管理が可能となります。

 

また、ヘルスケア分野ではがんの発症を未然に診断するサービスを「北京泛生子基因科技(ジェネトロン)」が提供。

 

ECサイトから4,999元(約7万9千円)で検査キットを購入することができ、製品の多角化によって大きく売上を拡大しています。

 

すでに「北京泛生子基因科技(ジェネトロン)」はナスダックへの上場を果たしており、遺伝子検査によるがんのリスク分析市場における事業拡大を今後も図るとしています。

 

>>米国株式市場・2021年にIPOの可能性が高い企業|時価総額や資金調達額

2020年12月 中国企業の大型上場

京東集団(JD.com」の子会社である「JD Health(京東健康)」は香港証券取引所に上場し、オンライン医療市場の拡大とともに大きく業績を拡大。

 

オンラインでの処方箋販売や医師ネットワークを通じて、患者の健康を促進することを「JD Health(京東健康)」は事業の強みとしており、今後は薬局への投資によって実店舗を活用したビジネスモデルの構築にも取り組むとしています。

 

現在は、オンラインでの薬販売が収益の柱となっている一方、オンラインでの健康診断事業は医療保険の適用範囲が限定されている課題が存在しており、今後はデジタルヘルスケア市場における新たなスタンダードの構築が「JD Health(京東健康)」には期待されます。

 

また、中国の洗剤市場で大きなシェアを獲得している「藍月亮集団」も香港証券取引所でのIPOによって96億香港ドル(約1,300億円)の資金調達に成功。

 

「藍月亮集団」のIPOには多くの個人投資家が参加したことで知られ、生活用品を販売する企業の上場は国内需要の高まりとともに今後も中国では人気を集めるとも考えられます。

 

米国でのIPOが困難になった現在、香港証券取引所と上海証券取引所の影響力は中国企業のIPOとともに大きくなっており、2021年はどれほどの企業が大型上場を果たすのか大きな注目が集まることでしょう。

 

>>世界のユニコーン企業2021IPOが期待されるスタートアップ企業の有望銘柄

まとめ

社会意義のあるゲームが中国では普及しており、より高度な社会的常識を育むといった観点から事業を構築する動きが2021年は加速することでしょう。

 

2025年には自動運転車の新車販売が中国では始まることから「小馬智行(ポニー・エーアイ)」などのテック系スタートアップ企業と従来の自動車企業の競合がさらに加熱することが予想され、さまざまな産業でこれまで以上に高度な技術競争が繰り広げられると考えられます。

 

世界に先んじて社会意義のある事業がテック系スタートアップ企業によって創出されることは中国の世界経済に与える影響をより良いものにするとも考えられ、規制強化とともにより公共性の高いビジネスモデルが高い評価を受けることでしょう。

 

>>アメリカIPO注目銘柄202012月|大型上場やスケジュールについて

 

・参考文献

 

15日の中国本土市場概況:上海総合0.1%安で反落、銀行・保険株下げ主導

中国発スマート農業、環境観測から農薬散布まで自動化 IoT活用でコスト減と増益を両立

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