最近ではFATF(金融活動作業部会)による暗号資産への規制強化が世界的に行われており、日本では第4次FATF対日相互審査が今年の10月にも行われる予定となっています。
FATFはマネーロンダリング対策として暗号資産への規制強化を打ち出していますが、既存金融システムの保護といった見方もされており、その取り組みには注目が集まっています。
しかしながら、人的リソースによる「マネーロンダリング及びテロ資金供与対策」には限界があり、多額のコスト(人件費など)の増大といったデメリットも存在します。
今後の金融犯罪の高度化に対応するためにもAIによる不正取引検知などテクノロジーの活用が期待されています。
暗号資産業界では株式会社BUIDLが暗号資産交換業者向けのマネーロンダリング対策ツール「SHIEDL(シードル)」を開発するなど、機械学習によるトランザクション分析などが実用化されています。
そのような中で、暗号資産取引所「BITPoint(ビットポイント)」のハッキング事件が起こり、暗号資産市場の関係者からは今後について悲観的な見方が強まっています。
ホットウォレットで暗号資産を管理されていたことが原因とされていますが、ビットポイントはアメリカ政府でも採用されているセキュリティソフト『APPGUARD』を導入しているなど、セキュリティ対策には熱心に取り組んでいる取引所でした。
セキュリティソフト導入に関するお知らせ/ビットポイントジャパン
金融庁業務改善命令によって社員数を増やし、社内管理体制の強化に取り組んでいたことも明らかにされていますが、再発防止にむけてどのような取り組みが金融庁のもと行われるのか注目が集まります。
金融庁は業務改善命令の報告義務を6月28日に解除したばかりとあって、今回の件を受けてさらなる規制の強化を目指すと考えられます。
自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)はホットウォレットでの運用を総資産の13%と定めており、ビットポイントはそれに準じて管理をしていたと明かしています。
ビットポイント代表取締役社長の小田玄紀氏は暗号資産の管理について「ホットウォレット管理比率をもう少し下げていくといった検討は十分必要かもしれない」と述べていました。
暗号資産業界にとってビットポイントハッキング事件は規制強化にむけて大きな意味を持つと考えられ、日本の暗号資産市場は厳格な法規制のもとで発展を目指すことが予想されます。
今回はビットポイントハッキング事件を踏まえて、第4次FATF対日相互審査への影響について解説していきます。
ビットポイントハッキング事件について

暗号資産取引所「BITPoint(ビットポイント)」は35億円相当の暗号資産がハッキングによって不正流出したことを明らかにしました。(最終的には30.2億円と発表されています。)
日本では2014年2月のマウンドゴックス480億円、2018年1月のコインチェック580億円、同年9月Zaif67億円に次ぐ被害額とあって、規制強化による暗号資産市場の停滞を不安視する声もあがっています。
このハッキング事件は7月11日午後10時12分にリップルの送金で異常を感知し、その27分後の10時39分には流出が確認されていました。
その後、12日午後2時ごろにビットコイン、ビットコインキャッシュ、イーサリアム、ライトコインの流出も確認され、これらはホットウォレットで管理されていたことが明らかにされています。
第4次FATF対日相互審査への影響について
FATFが発表した「解釈ノートとガイダンス」では暗号資産事業者が暗号資産の送付人だけでなく、受取人の顧客情報の管理を行うことが定められています。
>>FATF解釈ノート7b翻訳・解説|トラベルルールについて
これは暗号資産の分散型で匿名性といった特徴を排除し、既存の金融システムのように中央集権型で非匿名性の取引が行われることを示唆しています。
このような規制強化に対応するために日本の暗号資産取引所はさらなるコストの増大など負担を強いられることが予想されますが、規制強化がどこまで有効に働くのか未知数な部分はあります。
また、FATFによる規制強化は暗号資産市場のマネーロンダリング対策を目的としつつも「既存の金融システムの保護」といった意味合いが強く、今後は中央銀行や大手銀行による暗号資産の活用が予想されています。
>>中央銀行の暗号資産通貨発行について|金融市場の健全化にむけて
しかし、既存の金融機関においてもインターネットバンキングにおける不正送金は30億7300万円(平成27年)にも及んでおり、日本においてはビットポイントハッキング事件のみならず金融システム全体の改革を行わなくてはならない状況にあります。
さらに地方の金融機関における海外への不正送金が問題となっているなど既存の金融機関においても「マネーロンダリング及びテロ資金供与対策」が急務であると言えます。
第4次FATF対日相互審査にむけては
・ホットウォレットでの暗号資産管理禁止の徹底
・顧客格付けや持ち込みによる国際送金の受付拒否
といった対策が考えられ、これには人的リソースの増加や指揮命令体制の強化、窓口対応の徹底が求められます。
AIの活用によるマネーロンダリング対策について
今後は人件費増加など資金力のない暗号資産取引所は淘汰されることが予想されます。
既存の金融機関にとっても「マネーロンダリング及びテロ資金供与対策」強化による業務、人件費増加は避けられません。
そのような中で、AIを活用して顧客の信用分析などを行える「IBM Watson」といったサービスの導入を検討する動きが日本の金融機関でも起こっています。
暗号資産市場においても受取人の顧客情報管理が必要になった場合には、このようなAIサービスの活用が期待されます。
第4次FATF対日相互審査以降も「マネーロンダリング及びテロ資金供与対策」は必要不可欠であり、暗号資産業界においてもテクノロジーの活用が予想されます。
また、暗号資産の管理については自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会が
「可能な限りコールドウォレットに」
との声明を発表しており、不正流出への処罰厳格化や独自プロトコルの義務付けといった対策が必要であるとも考えます。
世界ではセキュリティトークン発行プラットフォーム「Securitize」がDSプロトコルと呼ばれる独自プロトコルを開発し、多くのプロダクトから高い評価を得ています。
Securitize|セキュリティトークン発行プラットフォーム
参考文献
ビットポイントの仮想通貨「3度目の巨額流出」で業界に大逆風の懸念
平成27年中のインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生状況等について
【経済インサイド】日本は「マネロン天国」の汚名返上なるか 国際組織が今秋審査
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