ブロックチェーン/暗号資産企業とIPO|2021年における国家超越と非中央集権の現在

2010年代はブリッツスケーリングなど短期に市場優位性を獲得する市場戦略が普及し、米国西海岸のテック企業は大きな成長を遂げました。2021年1月現在、その力は大きく肥大化し、中国市場への進出を急ぐビックテックは国家を超越して言論に関する統制を行うなど、やや高リスクなチャレンジを開始しました。

 

NY証券取引所における中国企業の上場廃止が再検討されるなど、トランプ政権とウォール街、中国をめぐり大きな時代の変化が訪れようとしています。そして、株式市場においてはシリーズE、Fのラウンドに到達せずとも上場を実現できるスキームが確立され、暗号資産デリバティブサービスを提供する「Bakkt」はSPAC(特別買収目的会社)との合併を発表。

 

ブロックチェーン/暗号資産市場は、従来の金融市場とは異なる小規模な社会実験的な市場として注目を集めてきましたが、その成長性は著しく、新たな市場秩序を生み出し、資本市場を加速/拡大することが期待されています。本稿では「Bakkt」のSPACを活用したIPO(新規上場)について解説し、2020年代前半の資本市場において大きな存在感を発揮するであろう暗号資産/ブロックチェーン企業とIPO市場の今後について考察していきます。

 

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Bakktの上場が市場にもたらす影響について

暗号資産デリバティブサービスを提供する「Bakkt」は、ビットコインオプション市場において競合企業であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)との競争に晒され市場優位性の獲得に向けた取り組みを続けてきました。シリーズBラウンドにおいてはCMT Digital、Pantera Capitalやボストン コンサルティング グループなどから3億ドルの資金調達を「Bakkt」は実施し、調達総額は4億8,250万ドルに及んでいます。

 

これまで暗号資産デリバティブなど機関投資家向けサービスを「Bakkt」は提供してきましたが、個人投資家を対象とした「BakktCash」のローンチを今年の3月に予定。今後5年間で「BakktCash」は3000万人以上の利用者を集めると「Bakkt」は予測しており、すでにスターバックスと「戦略的ローンチパートナー」であることなど暗号資産決済市場への参画による「Bakkt」の企業成長が期待されます。

 

今回、約21億ドルの評価額で「VPC Impact Acquisition Holdings(NASDAQ:VIH)」と合併し、上場企業として暗号資産決済サービスの提供を行うことで、中長期的には市場全体の信頼性向上を図ることにも繋がるでしょう。

 

「VPC Impact Acquisition Holdings」は、投資会社「Victory Park Capital」によって設立されたSPACであり、最大2億700万ドルの現金、PIPE(上場会社による私募増資)3億2,500万ドルを提供。「Bakkt」の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)からは5,000万ドルの資金提供がなされるとされ、合計5億8,200万ドルの追加調達を予定しています。

 

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ブロックチェーン企業とIPO

フィンテック企業への投資を行っているベンチャーキャピタル(VC)「Augmentum Fintech」は、分散型金融(DeFi)市場への参画を目指し、投資会社「ParaFi Capital」とのパートナーシップ(投資)を発表。デジタルバンク、P2Pレンディングとともに分散型金融(DeFi)は、2020年代のフィンテック領域において大きな存在感を発揮することが予想され、「Augmentum Fintech」は「ParaFi Capital」との連携によって専門知識の共有や共同投資などを進めるとしています。

 

ParaFi Capital」は分散型取引所「Uniswap」をはじめとして「MakerDAO」「Compound」への投資実績があり、より専門的な市場理解を促進することも期待されます。分散型金融(DeFi)市場は、スマートコントラクトによる仲介手数料の削減など金融取引の変革を実現するとして2020年頃から資金の流入が続いている一方、市場規模の拡大とともにマネーロンダリングに関する規制強化も示唆されています。今回、ロンドン証券取引所に上場している「Augmentum Fintech」のような企業が分散型金融(DeFi)市場に参画したことは、暗号資産/ブロックチェーン領域への期待値の高さを証明する事例と言え、従来の資本市場において分散型金融(DeFi)がどのような影響力を有するようになるのか、大きな期待が寄せられています。

 

最近ではAmazonが住宅建設事業を展開し、東南アジアではスーパーアプリが普及するなど、少数の企業による多角的な事業展開と市場独占が主流となっていますが、冒頭にも述べたビックテックの国家超越への危機感が日増しに強まっています。そのことから2020年代は規制強化によるビックテック解体論もさらに高まることが予想され、「非中央集権」をテーマにしたビジネスモデルにも多くの資金が投じられることでしょう。

 

一方、市場全体ではTezosやAlgorandなどの有望なブロックチェーン企業がすでに数億ドル規模で調達に成功しており、株式によってVCや投資家から各ラウンドごとに資金調達を行う従来の資本政策とは異なる性格を有する企業が存在するのも1つの特徴です。そのため暗号資産/ブロックチェーン領域においてはIPOでの大型調達を1つの通過点とする経営戦略を持たずとも大きな市場規模を獲得する企業も現れることが予想されます。

 

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まとめ

国家の枠組みが揺らぎ、その信頼を担保する構造が弱体化する中、非中央集権型のビジネスモデルには今後も多くの投資が集まることでしょう2021年は暗号資産決済サービスの普及が見込まれ、公開市場で「Bakkt」がどのような評価を投資家から受けるのか大きな注目が集まります。

 

シリーズBの企業がそのまま上場企業となる事例は、これまでの株式市場においても非常に珍しいと言えますが、すでに約21億ドルの評価額と4億8,250万ドルの資金調達を実施できる企業にとっては未公開株式市場でシリーズFまでのプロセスを経るよりも早期のラウンドで大型調達、SPACで上場することが得策であるとも考えられます。これは暗号資産/ブロックチェーン領域に限定される話ではなく、加速する資本主義を象徴する事例が今後も創出されることが期待されます。

 

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