経常収益(ARR)の証券化|事業証券化(WBS)のメリット・デメリット

 

事業証券化(WBS)は、レストランのフランチャイズ費用や音楽のライセンス契約といった安定したキャッシュフローを裏づけとして証券を発行し、日本でも2002年5月の「熱海ビーチライン事業証券化」をはじめとして

 

2005年12月:ガイアパチンコホール事業証券化 700億円
2006年11月:ソフトバンクモバイル携帯電話事業証券化 1兆4,500億円
参照:事業の証券化(WBS) - 証券化市場の注目商品 -

 

といった事例があります。

 

今回は、事業証券化(WBS)のメリット・デメリットを踏まえ、経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化の可能性について解説していきます。

 

事業証券化(WBS)のメリット・デメリットについて

事業証券化(WBS)は、各案件ごとに事業リスク分析やモニタリングを行うことからコベナンツ・ファイナンスの一つとしても知られ、元々は1990年代半ばの英国で、特別養護老人ホームのキャッシュフローが証券化されたことをきっかけに事業証券化(WBS)は始まりました。

 

ロンドンシティ空港
マダム・タッソー館(蝋人形館)
マルヌエシャンパーニュ(フランス・シャンパーニュ)
テムズウォーター
ヨークシャーウォーター
参照:Whole business securitisation

 

といった安定的なキャッシュフローを見込める事業体や公益事業セクターが事業証券化(WBS)に取り組んだ歴史があり、近年では米国においてさまざまな産業で活用が行われています。

 

・米国の事業証券化(WBS)事例
プラネットフィットネス:Planet Fitness Master Issuer LLC(スポーツジム)
サーブプロ:Servpro Master Issuer LLC(災害からの復旧サービスプロバイダー)
プロミススクール:Primrose Funding LLC(学校)
参照:U.S. Whole Business Securitization Benefits Overstated

 

米国ではDunkin ’Brandsが2006年に初めての事業証券化(WBS)を実施して以来、フランチャイズレストランを中心に31の発行企業が452億ドル以上のWBS証券の発行を行っています。

 

事業証券化(WBS)は、格付けの低い企業でもさまざまな資産(手数料、商標使用料、知的財産、リース料など)を裏付けにして資金調達を行えるといったメリットがある一方で、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で安定したキャッシュフローが見込めなくなる場合にはデフォルトしてしまう可能性があります。

 

Roland Bergerが作成したレポート「新型コロナウイルス 世界経済へ与えるインパクト」では、「観光・旅行、航空、小売、自動車、物流」といった産業は新型コロナウイルス長期的な影響を受けるとしており、他の証券化と同様に事業証券化(WBS)にもデメリットは存在します。

 

経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)について

一方、近年ではサブスクリプション/SaaS市場が拡大しており、日本でも

 

Sansan
ラクス
インフォマート
Freee

 

といった企業が時価総額1,000億円を超えており、年間経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)は60億〜120億円規模、成長率10〜50%前後で推移しています。

 

サブスクリプションサービスはさまざまな企業がビジネスモデルとして採用しており、身近なところでは

 

Adobe
Office 365
Amazonプライム

 

などを年間契約で利用されている方も多いではないでしょうか?

 

これまで売り切り型のビジネスモデルよりも単発での売り上げは下がるものの、継続してサービスを利用してもらうことで収益を上げることができます。

 

Adobeの2019年度の収益は前年比24%増加の111億7,000万ドル、デジタルメディア分野の経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)は16億9,000万ドル増加となっており、DDOM(Data Driven Operating Model)の実践やサブスクリプション/SaaSビジネスの代表的な事例として大きな成功を収めています。

 

私たちの身近では

 

MECHAKARI:衣類
Apple Music:音楽
Netflix:動画配信
Pairs:マッチングアプリ
リネット:クリーニング(日本サブスクリプションビジネス大賞2019 Paidy賞受賞)

 

といった1ヶ月単位で利用できるサブスクリプションサービスが普及していますが、競合サービスの台頭によって新規登録者数・解約数が変動するといった市場環境にあり、安定的なキャッシュフローを見込めるビジネスの確立に向けてサービスクオリティの向上に各社は取り組んでいます。

 

経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化について

 

AI技術・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用によって証券化業務の効率化が図られ、海外ではウイスキーのトークン化など新たな取り組みも行われています。

 

アセットクラスの多様化とともにこれまで証券化されてこなかったアセットの証券化(トークン化)が進行しており、経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化についても新しい金融商品として議論が交わされています。

 

これまで企業の資金調達の多くは株式(または社債)で行われてきましたが、経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化が普及することで、ゴールドマン・サックスなどの金融機関は成長企業に新たな金融サービス(テック・アドバイザリー・サービス)を提供することができ、ARR証券は投資家にとって魅力的な投資商品となることも考えられます。

 

経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化と似た事例はこれまで証券化ビジネスでは確認されており、古くはデビット・ボウイの「ボウイ債」(ABS:資産担保証券)によって、エンタメ業界で楽曲(著作権)収益を裏付けにした証券発行による資金調達が行われました。

 

そして、冒頭の「ソフトバンクモバイル携帯電話事業証券化 」の以前にもソフトバンクBBによるADSLモデム所有権の証券化の事例があり、

 

・ADSLモデムの月額使用料を裏付けにした証券の発行
・利用者数増加のためADSLモデムの無料配布
・大量のモデム生産による原価の圧縮(製造企業:台湾鴻海精密工業)

 

ADSLモデムの月額使用料といったように経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化は日本でもすでに行われてきた歴史があり、これからのスタートアップ企業の資金調達が

 

「SaaS-cash flow backed securities」
「recurring revenue securitization」
参照:Debt is Coming

 

によって行われることも考えられます。

 

実際のところサブスクリプション/SaaS市場では、資金力のある企業が市場を牽引している傾向にあり、株式や社債以外にもARR証券による資金調達が今後の成長企業にとっては重要になるという声もあがっています。

 

まとめ

かつてのソフトバンクが、事業証券化(WBS)によって急成長を遂げたように経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化を活用した資金調達の普及が見込まれています。

 

投資家にとってはアセットクラスの多様化というメリットとともに発行体のビジネスモデルをより深く分析する必要があり、成長企業の経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)への投資リスクをどのように判断するのか中長期的な取り組みが重要であると考えられます。

 

米国では商業用不動産ローン担保証券(CMBS)の格下げ問題が取り沙汰されており、「観光・旅行、航空、小売、自動車、物流」産業の停滞は景気回復に大きな影を落としています。

 

低金利環境の中で、不動産は投資家にとっても非常に魅力的な投資商品だったのにも関わらずわずか3,4ヶ月の間にデフォルトリスクを抱えるようになるなど、急激な市場環境の変化によって、これまで高い経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)を誇っていたビジネスモデルが崩壊してしまう可能性についても投資家は考えなくてはなりません。

 

一方で、巣ごもり消費の増大やテレワークの普及によって大きく業績を伸ばしているサブスクリプション/SaaSビジネスは存在しており、これまで証券化されてこなかった経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)は新たな投資商品としてこれまでのアセットとは異なる特徴(個々のビジネスモデルによってARRは異なるなど)を有するとも考えられます。

 

証券化ビジネスの新たな形態として経常収益(Annual Recurring Revenue:ARR)の証券化は大きな可能性を秘めていると言え、今後も調査を続けていこうと思います。

 

・参考文献

 

https://www.alexanderjarvis.com/arr/

 

ARR

 

https://coralcap.co/2020/05/when-tailwinds-vanish/

 

Debt is Coming

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