アントグループ(Ant group)のIPOについて|アリババ保有株式数や中国における芝麻(ジーマ)信用の普及

Ant Groupは、香港証券取引所メインボードと上海証券取引所のハイテク企業を対象とした市場である「科創板(STAR)」への同時上場を目指し、目論見書を提出。

 

ナスダックなど米国株式市場への上場は行わないものの、企業価値は2,000億ドルにのぼるとも推定されており、IPO規模は100億ドル以上、場合によっては史上最大のIPOである290億ドル(石油会社サウジアラムコ/2019年)を更新するともされています。

 

Ant Groupについて

アリババが運営する「タオバオ(淘宝網)」の決済サービスの開発と提供を目指し、Ant Groupは、2004年に設立され、中国商業銀行などとの協業によって「Alipay(アリペイ)」は中国の新たな金融エコシステムを創出してきました。

 

単なる決済サービス機能のみならず、Alipayの残高を資産運用に活用する「余額宝(ユエバオ)」の提供を始めたことで、Ant Groupは、金融サービス会社としてオンラインでの投資商品の販売やマーチャントバンクをも手がけるようになります。

 

当時は、Tencent(騰訊)が、WeChat(微信)のユーザー数を爆発的に伸ばすなど、各国の企業がビジネスモデルをスマートフォン(モバイル化)に対応させる取り組みを進めていた時代で、ソーシャルビジネスに出遅れていたAnt Groupは、Tencent(騰訊)という新たな競合企業の登場により、新たなサービスの開発による市場開拓を本格化させていきます。

 

2015年にはビックデータを活用した個人の信用評価サービス「芝麻信用(セサミクレジット)」をリリースし、融資事業「網商銀行(マイバンク)」「花唄(ファーベイ)」「借呗」や保険事業など多角的な金融サービス会社として、業績を拡大。

 

2015年に45億ドル(企業価値:450億ドル)、2018年に140億ドル(企業価値:1500億ドル)の資金調達を実施しており、Ant Groupの決済サービスの提供によるユーザー獲得とオンライン金融サービスの展開・普及によるクロスセリングの実現は、資本市場の歴史の中でも極めて優れた事例であると言えるでしょう。

 

Ant Groupの成功事例は、各中国企業の模範ともされ、Didi Chuxingはライドシェア事業のみならず保険(現代財産保険公司)や招商銀行(CMB)との提携によるローン、クレジットサービスなども提供しています。

 

Ant GroupのIPOについて

中国ではAnt Groupの他にもBytedance、京東数科、Cainiao Network、Didi Chuxingなど多くのユニコーン企業が誕生しており、2017年から2020年にかけては米国市場でのIPOが多かったものの、米国における中国企業の締め出しの影響もあり、今後は香港や科創板(STAR)におけるIPOが増加するとも予想されます。

 

米国市場(NY証券取引所、ナスダック):23社
香港市場:17社
科創板(STAR):2社

 

※中国ユニコーン企業の市場別上場数

 

中国独自の資本市場の確立の可能性については中長期的な観測が必要となりますが、2020年1〜6月期において、売上高725億元・純利益212億元を記録した高収益性や中国を代表するオンライン決済・金融サービス企業としての知名度を考慮すると、今回のIPOは世界の資本市場に与える影響力は非常に大きいものであることがわかります。

 

最近では、香港情勢の悪化によって、アジア金融の中心地が東京証券取引所に移り変わる可能性についての報道が相次いでいましたが、ハイテク企業の上場市場としては科創板(STAR)の存在もあり、成長が見込まれる中国のユニコーン企業が国内の上場市場を活用してIPOを実施するようになれば、資本市場のあり方も大きく変化することも考えられます。

 

Ant Groupの主要株主は、

 

アリババ:33%
杭州ジュナオ(経営幹部持株):20.66%
杭州ジュンハン(従業員持株):29.86%

 

といった構成となっており、今回のIPOでは、総資本の10%以上の新株発行を予定しています。

 

主幹事会社は、China International Capital Corp.、Citigroup Inc.、JPMorgan Chase&Co.、Morgan Stanley。

 

Alipay取引高:118兆元(2019年7月〜2020年6月)
ユーザー数:10億人以上
月間アクティブユーザー数:7億1,100万
ビジネスユーザー数:8000万以上

 

Antは、Alipayを起点としてオンライン金融サービスの提供によって大きく業績を拡大しており、2,000以上の金融機関と提携を結んでいます。

 

近年では、テクノロジーサービス料金の増加とデジタル決済と加盟店サービスの減少によって、収益構造が変化しており、オンライン金融サービスは2020年上半期において収益の63.4%を占めています。

 

米国から中国へ

米国が中国のハイテク企業を締め出したことで、中国企業の多くは世界の資本にアクセスできなくなるのでしょうか?

 

中国資本市場は独立した市場を形成し、国力の強化と相互不干渉による「モンロー主義」によって世界が中国に取り残される可能性はあるのでしょうか?

 

そのような観点からAnt GroupのIPOは世界の資本市場の歴史においても非常に重要な分岐点になるとも言え、世界の分断が進む中「中国・金融緩和・デジタル化」の時代を象徴する企業による巨額の資金調達が持つ影響力について今後も調査を進めてまいります。

 

・参考文献

 

アリババG傘下金融のIPO主要業務から米金融大手が除外 競合支援あだに

 

アント・フィナンシャル、世界最大の金融サービスのビジネスモデルを徹底解説

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